自律神経が病気の発症と関係していることは、一般的にも認識されています。自律神経は、呼吸や心臓、消化管など生命維持に欠かせない体の器官を支配しています。そのことからも、自律神経が人の体にとって、どれほど大切かは想像できると思います。
しかし実際には、自律神経が「どのように病気と関係しているか」ということを理解している人はほとんどいません。
自律神経は、白血球と呼ばれる免疫細胞のバランスに影響することで、病気の発症と関係しています。自律神経と病気の関係性を理解するためには、こうした自律神経と白血球、白血球と病気のつながりを学ぶ必要があります。
そこで今回は、「自律神経と免疫・病気の関係性」について解説します。
自律神経とは
自律神経とは、その名の通り、自律的に働くことで、さまざまな器官の機能を支配している神経になります。例えば、肺や心臓の動き、胃腸などの運動は自律神経によってコントロールされています。
つまり、自律神経は無意識下で生きるために必要な体の機能を調整してくれる、大事な神経になります。
そして、自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられます。交感神経は、活動時に活発に働く神経で、体を興奮状態にします。副交感神経は、リラックス時に活性化される神経で、体をリラックスさせる作用を有しています。
例えば、運動するときには、交感神経が働くことで心拍数や血圧が上昇します。その一方で、寝るときなどには、副交感神経が活動することで、心拍数や血圧は低下します。
人の体は、この2つの自律神経が相互にバランスをとることで、上手く調整されています。
自律神経と免疫の関係
既に述べたように、自律神経は交感神経と副交感神経の2つに分類されます。これら2つの神経がバランス良く活動することで、自律神経は正常に機能します。
そして、自律神経が問題で発症する病気は、「交感神経の過活動」もしくは「副交感神経の過活動」によって生じます。
また、自律神経は免疫とも関係しており、免疫機能の中心を担う「白血球」の数や働きにも影響しています。白血球には、血液によって全身に運ばれ、ウイルスや細菌などの異物を除去する役割があります.
そして白血球は、約95パーセントが「顆粒球」と「リンパ球」と呼ばれる免疫細胞で構成されています。
顆粒球は、細菌などの大きな異物を破壊する一方で、リンパ球は、ウイルスなどの小さな侵入物に対して攻撃します。つまり、どちらも体の免疫に関わる働きをしている細胞です。
自律神経は、こうした顆粒球とリンパ球の数と働きを調整します。具体的には、交感神経は、顆粒球の数を増やし、リンパ球を減らします。それに対して副交感神経は、リンパ球の占める割合を多くし、顆粒球を少なくします。
自律神経のバランスが整っているときは、顆粒球とリンパ球は「顆粒球:リンパ球=60:40」という関係にあります。
このように顆粒球とリンパ球のバランスが保てているときは、顆粒球もリンパ球も、それぞれの働きが最大限発揮され、免疫機能が高くなっています。
例えば、顆粒球は「細菌から感染症を防ぐ」という大事な役割を担っています。ただ、顆粒球には「活性酸素を増やす」という特徴もあります。活性酸素は、体にとっては必要なものですが、過剰になるとさまざまな組織を破壊する働きをもっています。
そのため、体内で顆粒球が増えすぎると、体のあちこちで炎症が起きやすくなります。
またリンパ球には、ガン細胞などを破壊する役割があります。そのため、リンパ球が少なくなると、ガン細胞が増えて、ガンにかかりやすくなります。
このように、自律神経の活動は免疫細胞と深く関係しています。
白血球とは
白血球は、血液中にある細胞の一つです。血液中には、酸素と炭酸ガスを運搬する「赤血球」があります。そして、血液1マイクロリットル(ミリリットルの1000分の1)あたりに白血球は5000~8000個、赤血球は500万個ほど含まれています。
こうした白血球の95パーセントが、顆粒球とリンパ球で構成されています。
顆粒球
顆粒球は、血液1マイクロリットルあたり3600~4000個であり、白血球全体の54~60パーセントを占めています。その役割は、古くなった細胞の死骸などの、大きな異物の処理になります。顆粒球は、細胞の中に酵素や活性酸素などの顆粒を持っており、この顆粒を使って異物を破壊して飲み込みます。
例えば、傷口の膿(うみ)や青緑色の鼻水などには顆粒球が関係します。これらは、細菌と戦い役割を終えた顆粒球の死骸です。
そして、顆粒球の特徴として、短命であることが挙げられます。顆粒球の寿命は、約2日であり、1日で全体の半分が新しいものに代わります。そして、寿命がきた顆粒球は、血液に乗って全身の組織にたどりつき、活性酸素を放出しながら死にます。
活性酸素は、正常な組織を破壊する力があります。体には、活性酸素を除去する機能があるため、通常の量では大きな問題になりません。しかし、顆粒球の数が過剰になると、大量に活性酸素が放出され、体が活性酸素を処理するスピードを上回ります。
その結果、全身の広範囲で組織破壊が生じます。体における組織の破壊は、ガンや胃潰瘍、膵炎などの病気を招きます。
つまり、こうした組織破壊が原因で起こる疾患は、顆粒球が過剰になることで起こるのです。
リンパ球
リンパ球は、血液1マイクロリットルあたり2200~3000個含まれており、白血球全体の35~41パーセントを占めます。リンパ球は、ウイルスなどの小さな異物の除去のほか、ガン細胞や老化した細胞などを処理する役割があります。
リンパ球は、ウイルスなどの異物が侵入すると、これを「抗原」として認識します。そして、抗原を無毒化する「抗体」と呼ばれるタンパク質を作ることで、抗原を処理します。
また、リンパ球には「1度遭遇したものを記憶する」という特徴があります。こうした性質をもっているため、人は「はしか」などの感染症を発症した後、その病気に2度とかからないようになっています。
リンパ球の寿命は1週間と短く、1日に全体の1~2割が入れ替わります。
リンパ球の年齢に応じた役割変換
リンパ球は、年齢に応じてその機能が変化します。
リンパ球を利用した免疫システムには、古いシステムと新しいシステムの2つがあります。古いシステムに使われるリンパ球は、「腸管」で作られる「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」と「胸腺外分化T細胞(NKT細胞)」の2つです。
こうした古いタイプのリンパ球は、主にガン細胞や老化した細胞など、体内で発生した異常な細胞の除去に働きます。
そして、もう一方の新しいシステムのリンパ球は、肝臓やすい臓、腸管などで作られる「B細胞」と、骨の中にある「骨髄」で生成される「T細胞」の2つになります。このB細胞とT細胞の2つは、各部位で生まれた後、心臓近くにある「胸腺」と呼ばれる組織で成長した後、全身をめぐります。
この新しいタイプのリンパ球は、外から侵入した新しいウイルスなどの除去に働きます。
そして、胸腺は加齢によって萎縮します。これが、高齢になると免疫が弱くなるといわれる理由です。つまり、年を取ると、新しいシステムのリンパ球であるE細胞やT細胞が十分に成熟しなくなります。
ただ、そうだからといって、高齢になるとその分だけ免疫機能が低下するわけではありません。
確かに、胸腺が萎縮すると、新しいタイプの免疫システムの働きは悪くなります。ただ、こうした新しい免疫システムの変化は、免疫機能が低下したわけではなく、免疫の中心が古いシステムに代わったために起こるだけです。
つまり、年を取ると、「加齢によって生じる老化細胞やガン細胞の処理を得意とする古い免疫系が中心となることで、必要に応じた防御態勢をとれるようになる」ということです。
自律神経と病気の関係
既に述べたように、自律神経に関する病気は、「交感神経の過活動」もしくは「副交感神経の過活動」のどちらかで生じます。
交感神経の過活動
交感神経が過活動を起こすと、顆粒球の数が増えてリンパ球が減ります。顆粒球は、外から侵入する細菌を除去し、感染症を防ぐ働きがありますが、増えすぎるとさまざまな問題を引き起こします。
例えば、顆粒球には「活性酸素を出す」という特徴があります。活性酸素は、さまざまな組織の破壊を起こし、炎症を誘発します。そのため、顆粒球が過剰に増えると、ガンや胃潰瘍、十二指腸潰瘍、糖尿病などの病気が発症しやすくなります。
一方で、リンパ球はウイルスやガン細胞などの小さな異物を破壊する役割があります。つまり、リンパ球の数が減ると、ガン細胞を攻撃する機能が弱くなり、ガンを発症しやすくなります。
さらに、交感神経が過剰になるということは、副交感神経の働きが弱くなります。副交感神経は、細胞の排泄やホルモンなどの分泌機能を担っています。そのため、副交感神経の作用が低下すると、ホルモンバランスの崩れや便秘につながります。
また、交感神経には「ノルアドレナリン」という物質を分泌することで、血管を収縮させる作用があるため、交感神経の過活動は全身の血流障害を引き起こします。
血液は、全身の細胞に酸素と栄養を送ることで、老廃物や細胞の代謝物を排泄します。
血流が障害されると、細胞の代謝は低下し、全身の働きが悪くなります。そうなると、食欲不振や倦怠感、集中力の低下、イライラ、不眠などさまざまな不調が起こります。また、血液の流れが悪くなると、体温が低下し、冷え性になりやすくなってしまいます。
副交感神経の過活動
副交感神経が過活動を起こすと、顆粒球の数は減り、リンパ球の数が増えます。リンパ球は、ウイルスなどの小さなものに反応することで体を守ります。しかし、リンパ球の数が過剰になると、微量の異物にも反応するようになり、アレルギー疾患にかかりやすくなります。
例えば、アトピー性皮膚炎や花粉症などは、アレルギー疾患の代表例です。
また、副交感神経には、心身をリラックスさせる作用があるため、過剰に働くと気力や活力が低下します。そうなると、落ち込みやすくなり、うつ病を発症しやすくなります。
さらに、交感神経の過活動と同様に、血流障害も起こします。副交感神経が活動すると「アセチルコリン」という物質が分泌されます。アセチルコリンには、血管を拡張する作用があるため、これによって血流量が増加します。
ただ、血管が開きすぎると、血流がよどむため、結果的に血液の流れが悪くなります。このように、交感神経とは違った形で血行を悪くするのです。
最後に、交感神経と副交感神経の活動が過剰になることで起こりやすい病気・不調の例をまとめます。
交感神経の活動過剰 |
副交感神経の活動過剰 |
---|---|
・肩こり ・五十肩 ・関節リウマチ ・耳鳴り ・関節痛、痺れ ・高血圧 ・頭痛 ・痔 ・脳梗塞 ・線維性筋痛症 ・静脈瘤 ・心筋梗塞 ・月経困難症 ・歯周病 ・狭心症 ・脱毛 ・子宮筋腫 ・子宮内膜症 ・冷え症 ・がん ・シミ、シワ、くすみ、ニキビ ・動脈硬化 ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍 ・潰瘍性大腸炎、クローン病 ・白内障、緑内障 ・糖尿病 ・痛風 ・甲状腺機能障害 ・胃炎、肝炎 ・不眠、イライラ |
・アレルギー性疾患、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症 ・下痢 ・骨粗しょう症 ・かゆみ、しもやけ ・頭痛 ・虫垂炎、蜂窩織炎 ・うつ、気力減退 ・食欲亢進 ・肥満 |
今回述べたように、自律神経は免疫に関係し、免疫は病気に関係します。そのため、多くの病気を予防するためには、自律神経のバランスを整えることが大切になります。