背骨の重要性

背骨と自律神経、生活習慣の関係:不調の根本的な原因

背骨は、人間にとって非常に重要なものです。私は理学療法士として働く中で、ひざや肩といった四肢の痛みには、背骨の硬さが影響していると考えています。
また、背骨は自律神経と深い関係にあります。そして自律神経は、生活習慣の影響を受けます。
例えば、寝不足や食べ過ぎなどがあった翌日は、背中や腰が硬くなっているのを感じる人は多いはずです。これは、生活習慣が自律神経に影響して、さらに自律神経が背骨に作用しているために起こる現象です。
こうした生活習慣と自律神経、背骨の関係性を学ぶことで、痛みなどの障害(不調)発生を予防するために、生活習慣が重要になることを理解できます。
そこで今回は、「背骨と自律神経、生活習慣の関係」について解説します。

背骨の重要性

背骨は、体の中でも非常に重要な部位になります。背骨は体の中心に位置しているため、背骨の不調(柔軟性低下や筋力低下)は、手足の痛みなどの発生に影響します。むしろ、肩やひざの痛みといった手足の障害は、ほとんどが背骨の問題が原因で引き起こされています。
そこで以下に、背骨の重要性について述べます。

背骨の部位による名称

背骨とは、頭蓋骨の下から尾骨までの部分を言い、全部で30個の骨から成ります。上から「頸椎(けいつい)」「胸椎(きょうつい)」「腰椎(ようつい)」「仙椎(せんつい)」「尾骨」と呼ばれ、頸椎が7個、胸椎が12個、腰椎、仙椎がそれぞれ5個、尾骨1個で構成されます。
簡単に言うと、頸椎は首、胸椎は胸、腰椎は腰の位置にある骨です。これらが積み重なり、「S字状の弯曲」を形成しています。
そのS字状の弯曲が、体にとって必要となるさまざまな機能を担っているのです。

背骨は体の中心にある

体を動かすとき、多くの人はその末端部分(手足)しか動いていないと考えています。
例えば、文字を書く動作では「手先もしくは肘辺りまでしか、その動きに関係していない」と考えている人がほとんどです。しかし実際には、このような動作でも、肩や肩甲骨、背骨などの中心部も微妙に連動して動いています
そして、こうした背骨などの小さな動きが、効率的な動作を遂行するために、とても大切になるのです。
もう少しわかりやすくなるように、腕を上げる動作(バンザイの動き)を例に挙げます。
背中を丸めた状態でバンザイした場合と、姿勢を良くした状態で同じ動作を行ったときでは、どちらの方がスムーズに行えるでしょうか。実際に行ってみるとわかるかと思いますが、背中を伸ばした状態の方が、間違いなく腕を挙げやすいです。
こうしたことから、バンザイは、一見すると肩の動きだけのように見えますが、実は中心部である背骨の動きも伴っていることがわかります。
そして、姿勢が悪くなって、本来伴うはずの背骨の動きが制限されてしまうと、同じバンザイを行うにしても肩が背骨の分まで代償して動かなければ、その動作が達成できません。つまり、背骨などの中心部の柔軟性が低下すると、肩や手などの末端の関節に過剰な負担がかかるということです。
このように、体の中心にある背骨の柔軟性が悪くなると、手足の関節に大きな負担がかかることにつながります。

背骨はS字状に弯曲(わんきょく)している

「背骨が前後に弯曲している」ということは多くの人が認識していることです。そして、この背骨の弯曲には意味があります。
人は進化の過程において、四足歩行から二足歩行になりました。四足歩行では、上半身を両腕で支持していましたが、二足歩行になると上半身が荷重部位となり、その分の重さをカバーする体の構造が必要になったのです。
その時に作られたのが、背骨のS字弯曲です。背骨はS字状に弯曲していおり、上半身の重さを、S字状の構造によって「バネ」のように吸収します。
このように背骨が上半身の負担を背骨で吸収することで、足や背骨の一番下にある腰に、上半身の重さが集中してかかることを防いでいます。つまり、この背骨の弯曲がないと、腰や足に過剰な負担がかかり、痛みを発生してしまう可能性があるということです。
以上のように、背骨は体の中心で動くことで末端の関節にかかる負担を減らしたり、弯曲していることで上半身の重さを分散したりする役割があります。
このような理由からも、背骨はとても重要であり、私も優先して施術を行う部位です。実際に、背骨を柔らかくすることで、手や肩、ひざなどの痛みが軽減することは日々実感しています。もし、体に痛みがある場合は、まずは背骨を柔らかくすることから始めてください。

背骨と自律神経の関係性

背骨は、手足も含めた全ての動作に連動して動きます。また、上半身にかかる負担を吸収する役割があります。そのため、肩やひざといった四肢の関節や、腰への負荷を減らすためには、背骨が柔らかくあることが大切です。
そして、背骨を硬くする原因の一つに「自律神経」があります。自律神経の不調は、背骨に悪影響を与えて背骨の柔軟性を低下させます。
そこで以下に、背骨と自律神経の関係性について記します。

自律神経とは

自律神経とは、意識することなく働き続ける神経であり、体のさまざまな機能を調整してくれています。
例えば、心臓は自律神経によって支配されています。もし心臓の活動が、自律神経によって無意識にコントロールされていなければ、睡眠中などの無意識のときに心臓は停止し、死に至ります。
しかし、心臓は自律神経に支配されていることで、寝ている間でも自動的に活動が調整されているため、睡眠中に心臓が停止して死ぬことはありません。他にも、血管や内臓、呼吸運動なども自律神経によって制御されています。
また、呼吸運動は無意識なものだけでなく、意識的にも調整することができます。そのため、呼吸を整えることは自律神経のバランスをコントロールすることになります
緊張する場面で深呼吸を行うことが勧められるのは、呼吸をゆっくり行って自律神経の活動を調整することが目的です。深呼吸によって呼吸をコントロールすることで、自律神経のバランスを整えることができます。
これが、「健康のためには呼吸が大切だ」と言われる理由の一つです。
このように、さまざまな組織が自律神経によって調整されることで生命を維持しているのです。

自律神経が背骨に与える影響

自律神経の乱れは背骨の硬さとなって現れます
各臓器は、神経によって支配されています。そうした神経は、「中枢神経」と「末梢神経」の2つに分けられます。脳と脊髄を中枢神経といい、そこから臓器までの神経を末梢神経といいます。そして、脳からの指令は、脊髄、末梢神経を介して各臓器に伝えられます。
それと同様に、各臓器の情報も末梢神経を介して脊髄に伝えられます。内臓からの情報は、とくに自律神経によって脊髄へ伝えられます。また、脊髄は背骨の中にあります。
このような理由から、内臓の不調は、自律神経を介して背骨に大きく影響します。こうした反応を、専門用語で「内臓体性反射」といいます。具体的には、内臓の活動が乱れて内臓体性反射が起こると、背骨の周りの筋肉は緊張します。背骨の周りの筋肉が緊張すると、当然、背骨は硬くなります。
以上のように、内臓、自律神経、背骨はつながっています。もう一度まとめると、「内臓の不調は、自律神経を介して内臓体性反射を起こし、それによって背骨の周りの筋肉が緊張するため、背骨が硬くなる」ということになります。
背骨は肩やひざの痛みなどに大きく影響します。その背骨を硬くしないためにも、自律神経を乱さないような生活を送ることが大切です。

背骨と生活習慣の関係

気管や心臓、腸などの臓器は、背骨の中心にある脊髄から出る神経によって支配されています。そのため、背骨と臓器はお互いに深い関係があります。また、脊髄から臓器まで、そして臓器から脊髄までに伸びる神経は、自律神経になります。
こうした、自律神経の乱れや内臓の不調は「生活習慣の崩れ」から生じます。
具体的には、睡眠不足を中心とした「睡眠障害」は胸椎の上方、肩甲骨の上端の間に影響します。一方、食べ過ぎや消化不良などの「食生活の不摂生」は胸椎の真ん中から下、肩甲骨の間から下端に内臓体性反射を起こします。
このような反射が生じることで、背骨は硬くなり、弯曲も小さく真っ直ぐな状態になります。
背骨は柔らかく、S字状であることでその機能を発揮します。もし、背骨に柔軟性がなくなり、さらに真っ直ぐに伸びた状態になると、結果的に手足の関節に、痛みなどの障害が発生することにつながります。
このように、不摂生な生活を送ると「生活習慣の乱れ → 自律神経 → 背骨の硬さ、弯曲減少 → 手足の痛み」という流れができてしまいます。つまり、四肢(手足)の痛みも根本的な原因を突き詰めると、生活習慣に行きつくということです。

今回述べたように、手足の関節と背骨は深く関係しています。そして、背骨の不調は生活習慣の乱れによって生じる自律神経の問題が原因で起こります。
こうしたことから、手足における障害を予防・解消するためには、生活習慣を整えることが重要だといえます。