背骨の重要性

人間の体に顎(あご)が存在する理由

人には、顎や歯といった咀嚼機能が備わっています。このような咀嚼器官は、生物が背骨を持った「脊椎動物」に進化をする過程で、獲得されました。
器官の形成には、その器官にかかる負担が影響します。体は、ある部位に一定の刺激が反復して加わると、それに適応するような形を作ります。このことを繰り返すことで、生物は進化してきました。
そこで今回は、咀嚼器官の獲得過程とその重要性について述べます。
 生活様式が変わると、体の機能も変化する
生物の生活では、環境が大きく変化することがあります。変化に対して、生命を維持するために、生活様式も変える必要が出てきます。
例えば、生物の起源は海にあるとされています。しかし、「洪水」と「干ばつ」によって、生物は海中で生活することができなくなったために、陸上に避難しました。このように、環境の変化は生活様式を変えます。
また、生活様式が変わると、体にとって必要な機能も異なってきます。
水中では、えら呼吸を行うことで、水の中から酸素を取り込むことができていました。しかし、上陸することで、空気から酸素を獲得しなければならなくなりました。。そのため、えら呼吸から肺呼吸へと、呼吸方法を変える必要性が出てきました。
このように、環境は生活様式を変え、生活様式は体の機能を変化させます
 咀嚼器官の獲得
人間の咀嚼器官も同じように、生活様式の変化に伴って獲得されました。
もともと、咀嚼器官は、水中における水の流れに抗するためにできたものだと言われています。これは、岩に吸いついて生活する生物が、岩から離れないように噛みついた結果、顎と歯に一定の刺激が加わることで、形成されたというものです。
また、体は刺激の加わり方によって、器官の位置や構造が変わります。
例えば、口と肛門は分かれていますが、実質は、一本の消化管としてつながっています。これは、生物がまだ水中で生活していたとき、頭進といって、頭から前方に進むような移動方法を行っていたことが関係します。
頭進すると、水の抵抗力が頭側から尾側にかけてかかります。このような刺激が加わったために、頭側である口から肛門まで消化管が伸びたと考えられています。
咀嚼器官も同様に、外部からの刺激の加わり方によって、その構造は変わります。
進化の過程において、人は、四足歩行から二足歩行になりました。二足歩行を獲得した理由は、「道具を持つために手を使えるようにしたため」、「食べ物を獲得するために長距離の移動が必要になったため」などさまざまな説があります。ただ、今の段階で根拠のある定説はありません。
二足歩行になると、咀嚼器官にかかる刺激の力や方向も変化します。
二足歩行では、頭の位置が体の一番上になります。頭部には、脳という、生きていく上で重要な臓器や器官が存在します。
そのため、通常では、できるだけ頭部を安定させる必要があります。これは、心臓でも同様であり、人にかかわる道具や環境は、生きていく上で大切な臓器がある部位を守るようになっています。それは、脳や心臓に負担がかかると、生命維持に支障をきたしてしまうためです。
例えば、陸上のトラックなどは、基本的に左回りになっています。これは、心臓が左側にあるためです。もし、右回りになると、左側にある心臓に遠心力が加わり、負担が増えてしまいます。
実際に行ってみるとわかりますが、ほとんどの人が、左回りの方が走りやすく、スピードも速くなるはずです。
そこで、頭部もできるだけ安定させる必要があります。顎の関節は、靱帯や筋肉などが全くない状態では、重力の影響によって、上下に外れるような形になっています。顎が不安定な状態だと、当然、頭部も安定性しません。
そのため、顎を安定させるために、顎を上下に押し付けるような大きな「側頭筋」という筋肉がついています。側頭筋が働くことで、顎の関節は安定し、結果的に脳にかかる負担も減ります。
このような機能は、地面に這って移動するような生物では必要ありません。なぜならば、そのような生物は地面によって頭が支えられているからです。もし、四足歩行のような生物のように、地面から頭部が浮いていても、二足歩行よりも明らかに低い位置であるため、頭が大きく動かされることはありません。
実際に、無脊椎動物である昆虫などは、人間の顎と違って、上下ではなく、左右に動くような構造をしているものがほとんどです。
今回述べたように、人は二足歩行を獲得したがゆえに、頭が不安定な状態になりました。そして、頭を安定させるために、現在のような咀嚼器官が形成されました。そのため、「顎関節症」などの、顎の不調は、姿勢や痛みを伴うだけでなく、頭部の安定性がなくなってしまいます。脳にかかる負担も大きくしてしまいます。