腰痛は、多くの日本人が悩まされている症状です。腰痛に対しては、さまざまな体操やストレッチが提唱されていますが、その内容は統一されていません。
腰痛に対する運動の中で、人気があるものに「体幹トレーニング」があります。昔は、体の表層にある腹筋と背筋を鍛えることが流行っていましたが、体幹トレーニングは、その腹筋と背筋より深くにある「深層筋」をターゲットとしたものです。
しかし、体幹のトレーニングは一歩間違うと、腰痛を悪化させる原因になります。そこで今回は、腰痛と体幹トレーニングの関係について解説します。
腰痛の原因は「体幹の安定性低下」ではない
このようなトレーニングは、「腰痛は体幹の安定性が低下しているために生じる」ということを前提に行われています。しかし、腰痛の多くは、体幹の安定性ではなく柔軟性に問題があることがほとんどです。
背骨は、前後にS字状の形をしています。背骨には、そのS字状のバネ様構造によって、体にかかる衝撃を吸収する役割があります。また、その機能は、背骨が柔らかいことで発揮されます。
地球環境において、人の体には物理の法則が働きます。その中の一つに、作用反作用の法則というものがあります。これは「ある物体Aから物体Bに力C(作用力)がかかるとき、物体AにはCと同等の力(反作用力)が返ってくる」というものです。
そして、反作用力は、体のどこかで吸収する必要があります。その衝撃吸収機能を担っているのが背骨のS字弯曲(わんきょく)になります。
反作用力を吸収できない場合、その力は、肩やひざ、腰など末梢の関節で暴発します。そのような場合、関節内の構造物が破壊されることで、痛みを引き起こします。そのため、人の体は、吸収することができる以上の力は発揮しないようになっています。
つまり、発揮できる力は、反作用力を吸収できる能力に依存しているということです。そのため、衝撃を吸収する背骨のS字弯曲が小さくなると、その分だけ発揮される力も抑えられます。これは、体幹筋でも同じことが様に起こります。
このような理由から、腰痛の原因が体幹の安定性低下にあっても、まずは背骨の柔軟性を改善させることが必須だと言えます。
体幹を固めると肩や股関節にかかる負担が大きくなる
多くの人は、体幹のトレーニングによって、「腰回りを固める」ようなイメージを持っています。この発想は、「固いものは安定性があり、柔らかいものは安定していない」、という考えから生じるものだと思います。
しかし、先ほども述べたように、そもそも体幹を安定させる筋肉が充分に働くためには、背骨の柔らかさが必要です。
背骨には、体にかかる衝撃を吸収する役割があります。もし、背骨の衝撃吸収能力が低下していると、その分の負担が、他の関節にかかります。これが、多くの人が抱える痛みの原因です。
そのため、体幹を固めるようなトレーニングは、腰だけでなく、四肢の関節を痛める原因にもなります。
方法次第では、体幹のトレーニングが腰痛に有効な場合もあります。しかし、体幹トレーニングはその実施が難しく、専門家でも上手くできていないことが多いです。
このような理由からも、腰痛がある場合は、まずは背骨の柔軟性を向上させることが大切です。また、体幹のトレーニングを行う場合は、体幹について専門的に勉強している人の指導を受けることをお勧めします。
あなたが行っている体幹トレーニングは、腰痛を改善させるどころか、他の関節を痛める原因になっているかもしれません。