ひざの痛みは、整形外科を受診する患者さんの中でも多い訴えです。そして大半の病院では、「痛み止めの処方」「ひざ関節周りの筋力トレーニング」などが指示されます。しかし、それでは根本的な改善にはなりません。
ひざ関節の痛みは、主に大きく2つの部位から起こります。それは「脛骨大腿(けいこつだいたい)関節」と「膝蓋大腿(しつがいだいたい)関節」です。
前者は、一般的に言われる「ひざ関節」であり、太ももの骨と下腿の骨とで形成される関節です。一方で後者は、お皿と呼ばれる「膝蓋骨」と太ももの骨で作られる関節です。ひざが痛い人はこの2つのどちらかの関節に問題がある場合がほとんどです。
そこで今回は、「脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節の痛みの特徴とその対処法」について解説します。
脛骨大腿関節の痛み
脛骨大腿関節とは、大腿骨(モモの骨)と下腿骨(スネ部分の骨)で構成されている関節です。一般的に考えられている「ひざ関節」は、脛骨大腿関節のことを指します。
こうした脛骨大腿関節は、ひざの痛みを作り出す原因となります。
脛骨大腿関節による痛みの特徴
脛骨大腿関節は、太ももの骨とその下の下腿の骨で作られる関節であり、一般的にひざ関節と呼ばれるものです。この関節には、「半月板」といわれるものが挟まっており、関節にかかる衝撃を吸収したり、関節の動きを滑らかにしたりします。
この関節では、半月板やその下にある「軟骨」に傷がつき、関節内に炎症が起こることで痛みが出現します。そして、半月板や軟骨は「ねじり」の動きで損傷しやすいです。そのため、症状として以下のような時に痛みが出現するという特徴があります。
・歩行時
・ねじり動作
・方向転換時
・ひざを深く曲げる動作
ひざの「ねじり」は太モモ裏の筋肉の硬さによって起こる
脛骨大腿関節は、ひざ関節をねじることで痛みが出やすいということは述べました。そして、ひざ関節のねじれは「ハムストリングス」と言われる、太モモの裏にある筋肉の硬さによって生じます。ハムストリングスは、「坐骨」から始まり、2方向に分かれ、ひざ関節の後面の内外側に付着します。その解剖学的特徴から、ひざ関節の曲げる動きとねじりに関係します。
脛骨大腿関節の痛みを引き起こす「ねじり」の動きのほとんどは、このハムストリングスの影響によるものです。ハムストリングスが過剰に収縮することで、ひざ関節に過度のねじれが起こります。そして、このハムストリングスの過剰な緊張は、脊柱の柔軟性が低下することによって引き起こされます。
脊柱はS字状の形状を保ち、柔軟性があることでその機能を発揮します。その機能の内の一つに、「バランスの調整」というものがあります。そのため、脊柱が硬くなってしまうとバランス能力が低下してしまいます。
バランス能力が悪くなると、身体はバランスが保てる範囲でしか体を動かさないようにします。そこで、ハムストリングスなどの長い筋肉の緊張を高めることで、体を固めてバランスが崩れないような反応が起こります。
つまり、バランスの悪さに対する代償的な反応が、結果的にひざの痛みを引き起こしています。そのため、脛骨大腿関節の痛みの多くは背骨の硬さに原因があるということです。
以上のように、ひざ関節の痛みの多くは背骨が原因で起こっています。実際、背骨を柔らかくするような運動や施術を行うことで、ひざの痛みが軽減することはよく経験します。ひざの痛みがある方は、まずは背骨を柔らかくするような運動を行ってみて下さい。
膝蓋大腿関節の痛み
脛骨大腿関節と並んでひざの痛みを引き起こす原因となりやすいのが、膝蓋大腿関節です。膝蓋大腿関節とは、いわゆる「ひざのお皿」で作られる関節です。
そこで以下に、膝蓋関節による痛みの特徴と対処法について解説します。
膝蓋大腿関節による痛みの特徴
お皿と太ももの骨で形成されるこの関節は、他の関節と同じ構造をしています。そのため、負担がかかり過ぎると軟骨がすり減り変形します。そして、この関節の特徴は「大腿四頭筋」と呼ばれる、太ももの前面につく大きな筋肉におおわれているということです。
大腿四頭筋は、ひざ関節を伸ばす運動を行う際に収縮します。また、荷重を掛けた状態で動作を行う場合、そのうちのほとんどで大腿四頭筋が働きます。
この解剖学的特徴により、大腿四頭筋が過剰に働くと膝蓋骨が上方から圧迫されてしまい、関節に圧縮ストレスがかかります。そして、このストレスが継続すると関節は損傷し、変形します。
上記のようなことから、膝蓋大腿関節に問題がある人には、以下のような特徴があります。
・ひざの前面でお皿の周りが痛い
・階段動作で痛い
・昇り動作より降り動作で痛みが強い
・踏み込む動作で痛い
・車でアクセルを踏む動作で痛い
大腿四頭筋の過収縮は腰の前弯(ぜんわん)不足によって起こる
膝蓋大腿関節へのストレスは、大腿四頭筋の過剰な収縮で起こりやすいということはすでに述べました。大腿四頭筋はその筋肉の付き方から、重心が後方になると過剰に働きます。常に踵(かかと)に体重が乗っている人は、重心が後方に変位している傾向にあります。
一度行っていただくと実感できると思いますが、立った状態で体重をつま先にかけると、太ももの裏の筋肉に負担がかかり、踵に体重をかけると太ももの前の筋肉が働きます。そのため、大腿四頭筋が過剰に収縮しないようにするためには、重心の後方化を防ぐことが大切です。
そして、重心の後方変位は、腰の前弯(ぜんわん)不足で生じることがほとんどです。
腰は通常、前弯といって少し反った状態になっています。この反りが小さいと、重心が後方に移動しやすくなり、結果として大腿四頭筋への負担が大きくなります。そのため、膝蓋大腿関節に痛みがある人は、腰の前弯を促通することが大切です。
具体的には、まずは力を抜いた状態で椅子に座ります。この時は、ダラッとした姿勢であり、腰の前弯は小さくなっています。この姿勢から骨盤を起こすと同時に腰の前弯を強め、姿勢を伸ばします。イメージは「へそを前に突き出す」感じです。
このとき、決して胸を無理に張らないようにして下さい。多くの人は背筋を伸ばそうとすると胸を張ろうとします。ここでは胸ではなく、骨盤と腰を動かすことが目的です。
この運動を、痛みのない範囲で気がついたときに行ってください。また、長時間座っている必要がある場合は、ずっと伸ばしているのではなく、ときどきこのような運動をして腰を動かすようにして下さい。無理に姿勢を保持していると逆に動きが悪くなります。
以上のように、膝蓋大腿関節の痛みには腰の前弯の促通がポイントになります。先程述べたような特徴が認められる場合は、ぜひこの運動を実施してみて下さい。
今回述べたように、一言でひざの痛みといっても、人によってそれぞれ原因が異なります。そして、ひざの痛みの多くは、脛骨大腿関節か膝蓋大腿関節が原因となって引き起こされます。
そのため、ひざ関節における痛みを予防・解消するためには、それぞれの特徴や対処法を理解しておくことが大切です。