ダイエットを行う際に、食事のコントロールで苦労してダイエットに失敗する人は少なくありません。食事制限が上手くいかな人の中には、食事の制限自体ができずに失敗する人と、食事を制限したものの体調が崩れてダイエットを諦める人がいます。
どちらにも共通する問題として「低血糖症」が挙げられます。
低血糖症とは、血液中のブドウ糖量(血糖値)が基準値以下まで下がってしまった状態です。低血糖症になると、甘いものを食べたい衝動が強くなるため、糖質の制限が難しくなります。またそれだけでなく、イライラや集中力の低下、眠気など、さまざまな不調も出現するため、食事制限を中止せざるをえなくなります。
そのためダイエットで成功するためには、低血糖症について学び低血糖症を避けることが大切になります。
そこで今回は、「低血糖症の原因と精神症状・身体症状を引き起こすメカニズム」について解説します。
低血糖症を引き起こす6つの原因
低血糖症の人には、臓器の欠損といったような構造的問題がなく、体の機能が低下することで血糖コントロールが障害されて起こる人が多いです。こうした低血糖症を「機能性低血糖症」といいます。
こうした機能性低血糖症は、血液検査など、一般的な病院で行われている検査では発見されにくいです。そのため、病院を受診しても「原因不明」と診断されるケースがほとんどです。
そして、機能性低血糖症における原因の多くは生活習慣の不摂生にあります。
そこで、どのような生活習慣によって機能性低血糖症が起こるのかを知ることで、ダイエット中における機能性低血糖症の発症を防ぐことができます。
糖質過剰摂取
人間の体には、正常から逸脱するような反応が起こった場合にすぐに元に戻るような機能が備わっています。
例えば、運動を行うと心拍数が高くなります。しかし、運動を中止して一定時間休憩していると、自然と脈拍は落ち着き元の数値まで戻ります。血圧も同様であり、運動すると一時的には高くなるものの、すぐに通常の血圧値まで戻ります。
こうした体の働きを、専門用語で「生体恒常性(ホメオスタシス)」といいます。
ホメオスタシスは、血糖値に関しても同じように作用します。実際に、血糖値が上がりすぎたり逆に下がりすぎたりすると、ホメオスタシスによって血糖値が正常範囲に戻すような反応が起こります。
このような血糖値の調整は、主に「ホルモン」によって行われています。そして、血糖値を上げるホルモンは約6つありますが、血糖値を下げるホルモンは膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」だけです。
また、血糖値は食事によって上昇しますが、栄養素の中で血糖値を上げるものは糖質のみです。
食事で糖質を摂取すると、血糖値が急激に上昇します。それに伴い、体ではホメオスタシス機能が発揮されて、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌を促します。その結果、血糖値は正常範囲内に落ち着くことになります。
ただ、このときに血糖値の上昇が著しいと、インスリンの分泌が過剰に行われます。その結果、血糖値が下がり過ぎて正常範囲以下になります。
また、インスリンの過剰分泌は膵臓(すい臓)を疲れさせます。膵臓では、インスリンのみでなく血糖値を上昇させる作用を持つ「グルカゴン」も作られています。つまり、膵臓は血糖コントロールに深く関係している臓器だといえます。
そのため、糖質の過剰摂取によって血糖値の変動が激しくなると、血糖値を調整するために膵臓に負担がかかり過ぎることになります。そうなると、膵臓の機能が低下して血糖コントロールが障害され、機能性低血糖症が起こります。
機能性低血糖症を引き起こす原因のほとんどは、こうした糖質の過剰摂取による膵臓の機能障害だといえます。
アルコール、タバコ、カフェインの過剰摂取
アルコールは、肝臓で体にとって無害である「酢酸」まで分解・解毒されます。ただ、この解毒過程においては、大量に「ナイアシン」と呼ばれるビタミンB3 が消費されます。
ナイアシンは、脂肪やブドウ糖から体を動かすエネルギーを作り出すために欠かせない栄養素です。
それに加えて、ナイアシンの不足は血糖値上昇時における膵臓からのインスリン分泌を妨げます。その結果、血糖コントロール障害(急激な血糖値上昇)が起こり、その反動で機能性低血糖症を発症します。
またアルコールは、腸内におけるビタミンB6の吸収を大きく低下させます。
ビタミンB3やビタミンB6といったようなビタミンB群は、細胞の代謝にとって必要不可欠な栄養素です。ビタミンB群は、全てが協調して働くことで上手く活動して、新陳代謝を正常にする役割を果たします。
そのため、アルコールの摂取によってビタミンB6が不足すると、うつや不眠症などの精神的な症状が起こりやすくなります。
また、ビタミンB6不足は、糖質代謝も障害することになるため低血糖症を引き起こします。
さらに、タバコやカフェインは交感神経を刺激するため、急激な血糖値の上昇を引き起こします。その結果、血糖調整に関わる「副腎」という臓器に負担がかかり疲弊します。そして、疲弊した副腎では、本来求められているような血糖調整機能が働かないため、血糖コントロールが上手くいかなくなります。
このように、血糖値の急な変化は、血糖調整障害の大きな原因となります。
過食(特に炭水化物、動物性脂質)
既に述べたように、糖質の過剰摂取は膵臓を疲弊させることで血糖コントロールを障害します。
また、脂肪の過剰な摂取は、膵臓からで作られる脂肪の消化液である「リパーゼ」の分泌を多くします。その結果、膵臓が疲弊して血糖調整が障害されます。
ストレス
ストレスは、タバコやカフェインと同じように交感神経を刺激するため、副腎の疲弊を招く可能性が高いといえます。
またストレスだけではなく、風邪や睡眠不足、食べ過ぎ、アレルギーなどがある場合にも副腎による血糖コントロールが不足してしまう可能性が高いといえます。こうしたケースでも、副腎の働きによって問題に対処するため、副腎の疲弊が起こります。
ビタミン、ミネラル不足
糖質の代謝には、ビタミンやミネラルが欠かせません。そのため、ビタミンとミネラルが不足した食生活を続けると、低血糖症を発症しやすくなります。特に糖質の過剰摂取はビタミンB群を大量に消費するため、血糖コントロール障害が引き起こされます。
それ以外にも、コンビニ食やインスタント食、お菓子などを過剰に食べることは、ビタミンやミネラル不足を引き起こすことにつながります。
病気によるもの
低血糖症は、機能性低血糖症以外にも、病気が原因で起こる場合もあります。以下に、低血糖症を引き起こす病気を記します。
食事から吸収する栄養素のバランスを破綻させる |
・スルホニル尿素受容体異常症 ・カリウムチャネル遺伝子異常症 ・グルタミン酸脱水素酵素異常症 ・グルコキナーゼ異常症 ・インスリノーマ |
---|---|
グリコーゲンの代謝異常を引き起こす | ・糖尿病 |
糖新生の異常を引き起こす |
・ケトン性低血糖 ・フルクトース不耐症 ・ガラクトース血症 ・成長ホルモン欠損症 ・副腎皮質機能低下 ・アルコール誤飲による低血糖 |
脂肪酸の代謝異常を引き起こす |
・短鎖アシルVoA脱水素酵素(SCAD)欠損症 ・中鎖アシルVoA脱水素酵素(MCAD)欠損症 ・全身性カルニチン欠乏症 |
直接低血糖を引き起こす |
・胃切除後のダンピング症候群 ・血糖降下剤による低血糖 |
こうした病気では、低血糖症を発症する可能性が高くなります。
低血糖症で精神症状・身体的が出現するメカニズム
低血糖症で出現する症状は、主に「精神症状」と「身体症状」の2つに分けられます。そこで以下に、低血糖症で精神症状・身体的症状が出現するメカニズムについて記します。
低血糖症によるホルモン異常
血液中の糖分量が一定以下になる(低血糖)と、体はエネルギーが不足した状態となるため、さまざまな反応が起こります。
そして、体の細胞の中でも血糖値の影響を最も受けやすいのは脳です。脳は、体全体における血糖の20~30パーセントを消費します。そのため、低血糖状態になって血糖値が低下してしまうと、最初に脳が影響を受けることになります。
具体的には、脳の活動を抑えることで、脳による血糖の消費を抑えようとします。その結果、眠気が生じたり理性の働きが鈍ったりします。
このように低血糖状態は、「脳という大事な器官の働きを悪くせざるをえない」という体にとって、非常に危険な状態だといえます。そのため、体には低血糖状態を避けるためのさまざまなメカニズムが備わっています。
その中でも、特にホルモンによる血糖値の上昇は重要な働きをしています。
人間の体内には、体の正常な機能を維持するために、さまざまなホルモンが備わっています。そして、血糖値の調整も主にホルモンによって行われています。
血糖値を調整するホルモンの中でも、血糖値を下げるホルモンは、膵臓(すいぞう)で作られる「インスリン」というホルモンだけです。一方で、血糖値を上昇させるホルモンは、6~7種類もあります。
このことからも、体がいかに低血糖状態を危険と認識しているかがわかります。
そして、血糖値を上昇させる代表的なホルモンに「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」といったカテコールアミンと呼ばれるものがあります。
低血糖症になると、まずはカテコールアミンが分泌されることで血糖値を上昇させようとします。
ただ、このカテコールアミンは脳の情動をコントロールしている「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」と呼ばれる部分を強く刺激します。つまり、低血糖症になると脳の働きが悪くなって理性が低下してしまうだけでなく、感情的興奮が起こりやすくなります。その結果、精神状態が不安定になります。
またカテコールアミンは、自律神経の中でも、体を緊張させる作用のある交感神経を刺激する働きもあります。
交感神経の働きが過剰になると自律神経のバランスが崩れて、さまざまな症状が出現します。自律神経の乱れは、精神的な不安定を強くするだけでなく身体的な症状を引き起こす原因になります。
例えば、自律神経の乱れは不眠や関節痛、高血圧などの身体症状を引き起こします。
このように低血糖症は、血糖値を上げるためにカテコールアミンが過剰に分泌されることで、さまざまな精神的・身体的症状を引き起こすこします。
ちなみに、こうしたカテコールアミンは「朝方や夕方よりも日中に多く分泌される」という体内リズムがあります。そうした特徴から、たとえ低血糖症であっても、日中は血糖値が維持されて低血糖の症状が明らかになりにくいケースが多いです。
一般的に、低血糖による不調が出現しやすい時間帯は、ホルモンの分泌が減っていく15時以降になります。
低血糖症による具体的な精神症状
低血糖症になると、血糖値を上げるためにカテコールアミンが多く分泌されます。そして、カテコールアミンは、情動を司る大脳辺縁系や交感神経を刺激するため、過剰に分泌されると、さまざまな精神的不調を引き起こします。
カテコールアミンと一言でいっても、アドレナリンとノルアドレナリンの2つに分類されています。そして、それぞれで役割が違うため、カテコールアミンが過剰になって起こる不調にもさまざまなものがあります。
例えば、アドレナリンは攻撃的な感情を刺激します。その一方でノルアドレナリンは、否定的な感情を引き起こします。
つまり、アドレナリンの作用では、怒りや敵意、暴力といった感情が現れやすくなり、ノルアドレナリンが過剰に働くと、否定的な感情が表面化しやすくなります。
低血糖症になると、このように感情に作用するカテコールアミンの分泌が過剰になるため、以下のような精神的な症状を引き起こすことになります。
アドレナリン | ノルアドレナリン | カテコールアミン全体、その他 |
---|---|---|
・攻撃的行動 ・自律神経失調症 ・完璧主義 ・過剰な目的思考 ・怒りが止まらない ・ストレス耐性の低下 |
・うつ的衝動 ・感情抑制障害 |
・性格の異常化 ・思考の統合化障害 ・引きこもり ・強い自責の念 ・幻聴幻覚症状 ・不眠と悪夢 ・感情表現の欠乏 |
このように、低血糖症によってカテコールアミンの分泌が過剰になると、低血糖症自体の症状に加えて、自律神経の影響も加わるため、さまざまな精神的な問題が引き起こされます。そのため、こうした精神面の変化が現れた場合には、低血糖症を疑うことも大切です。
低血糖症による身体的症状
低血糖症は、大脳辺縁系や交感神経を刺激するカテコールアミン(アドレナン・ノルアドレナリン)の分泌を促すため、精神的だけではなく身体的に体を緊張させます。
その中でも、交感神経の刺激による身体的症状は、非常にバリエーションが多く複雑です。これには、「アドレナリンとノルアドレナリンの体に対する作用がそれぞれ異なる」ということが関係しています。
具体的には、アドレナリンには、心拍数や心拍出量の増加、血糖値の上昇、代謝の亢進といった作用があります。一方でノルアドレナリンは、主に血管を収縮する役割があります。
これらのカテコールアミンの作用に加えて、低血糖自体による症状も出現するため、低血糖症では、非常に複雑な身体症状が出現します。
以下に、低血糖によって起こる身体的な症状を記します。
アドレナリン | ノルアドレナリン | アドレナリン+ノルアドレナリン |
---|---|---|
・不安定な呼吸(浅い呼吸) ・朝の倦怠感 ・胃腸の弱さ |
・体温の上昇 |
・血管収縮(頭痛、冷え、ふらつき) ・動機 ・手足の震え ・発汗 ・慢性疲労 ・思考力低下 ・湿疹やアレルギー、関節炎 ・食後の眠気 ・めまい、ふらつき、物忘れ ・目のかすみ ・甘いものを欲する ・口臭 ・偏頭痛 ・筋肉痛 ・肥満 ・ため息、生あくび ・眼球の痛み |
このように、低血糖症によってカテコールアミンが過剰に分泌されると、血糖値の低下による症状に加えて自律神経の問題も加わるため、さまざまな不調が出現します。
ダイエットで食制限をしている際に、明らかでなくてもこうした症状が認められる場合には、低血糖症を疑うことも大切です。低血糖症を放置しておくと、ダイエットに失敗するだけでなく、体の健康を損なってしまう危険性があるため注意してください。
今回述べたように、低血糖症の多くは、生活習慣の不摂生に伴う機能性低血糖症です。そして、ダイエット中に問題となる低血糖症も機能性低血糖症であることがほとんどです。
そのため、ダイエット中の低血糖症を防ぐためには「糖質の過剰摂取」「嗜好品の過剰摂取」「過食」「ストレス」「ビタミン・ミネラル不足」に注意することが大切になります。
また、以上に挙げた精神的・身体的症状が現れた場合には、機能性低血糖症を疑うようにしましょう。