糖質制限をしていて食後の血糖値を測ったときに、血糖値が急上昇していて驚いた経験はないでしょうか?
糖質制限をしている人が糖質を摂取すると、予想以上に血糖値が急激に上がります。これは生理的な反応であるため、基本的に気にする必要はありません。
ただ、血糖値の変動が体に悪影響を及ぼすことは事実です。「糖質を摂って血糖値が急上昇するのであれば、糖質を一生摂らなければ問題ない」と考える人もいるでしょう。そうはいっても、生活していて糖質ゼロにするのは非常に難しいのが現状です。
そのため、糖質制限をしているのであれば、食後の血糖値上昇に対して正しい認識をもっておくことが重要になります。適切な知識があれば、糖質制限を続けながらも食後における血糖値の急上昇を防げるのです。
「私は糖質ゼロを続けるから大丈夫」という人でも、糖質制限によって食後の血糖値が上がりやすくなっているメカニズムを知っておいて損はありません。
そこで今回は、「糖質制限ダイエットで食後の血糖値が上がるメカニズム」について解説します。
糖質制限ダイエットで食後の血糖値が上がるメカニズムのまとめ
・糖質制限をすると食事によって血糖値が上がりやすくなる
・通常食事で摂取した糖は、肝臓と筋肉、脂肪によって調整されて血糖値に反映される
・糖質制限をすると、肝臓と筋肉、脂肪による血糖調整が起こりにくくなる
・糖質制限による食後血糖値の急上昇は一時的であれば問題ない
・食後血糖値の急上昇が長期的になると問題となる
・食後の血糖値が急上昇するメカニズムを理解した上で、あなたに合う食事法を考えることが大切
糖質制限をすると食後の血糖値が急上昇する?
あなたは糖質制限をしているときに、糖質を摂って血糖値を測ったことがあるでしょうか?
通常、血糖値はどれだけ糖質を摂っても140前後までしか上がりません。具体的には、糖尿病でなければ糖質1g辺りの血糖値上昇は1mg/dlであり、糖尿病であれば糖質1g辺りで血糖値が3mg/dl上がるとされています。
そして、どれだけ糖質を摂っても140を超えないのが通常といわれています。
ただ糖質制限をしている人の中には、糖尿病でないにも関わらず、糖尿病の人と同じくらい食事で血糖値が上がってしまう人が存在するのです。
例えば、糖質を20g摂ったとします。糖尿病でなければ、血糖値の上昇は20-30mg/dlとなります。しかし、糖質制限をしている人の中には、糖尿病でないにも関わらず、糖質20gで血糖値が60も70も上がってしまう人がいるのです。
このように、糖質制限をしている状態で糖質を摂取すると、食後の血糖値が急上昇しやすくなる傾向にあります。
糖質制限で食後の血糖値が急上昇するメカニズム
糖質制限で食後の血糖値が急上昇するのは、主に2つのメカニズムが考えられます。それは「筋肉や肝臓でのブドウ糖取り込みが低下している」「肝臓での糖取り込みが低下している」の2つです。
以下に、健康的な人の血糖値調節のメカニズムと、糖質制限をしている人における血糖値調整のメカニズムを比較しながら説明します。
健康的な人の血糖値調節
通常、食事で摂った食品は胃腸で消化されて腸から血液中に取り込まれます。そして、肝臓を通った後に再び血液へ入り全身の細胞へ送り届けられるのです。
食事から摂取した糖分は、こうした過程を経て肝臓や筋肉に届られてエネルギーとして利用されることになります。
具体的には、まず食事に含まれる糖の半分は肝臓で吸収されます。肝臓にグリコーゲンとして蓄えられるのです。肝臓で取り込まれなかった残りの半分が、血液中へ送り出されて血糖になります。
ただ、血液中に入った糖は筋肉や脂肪細胞にも取り込まれます。そのため、最終的に血糖値として反映されるのは、「食事から摂取した糖 - 肝臓で取り込まれた糖 - 筋肉や脂肪で取り込まれた糖」ということになるのです。
このように、健康的な体では肝臓や筋肉、脂肪などによって血糖値が上がり過ぎないように調整されています。
糖質制限者の血糖値調節
糖質制限をしていると、食後の血糖値が急上昇しやすくなります。これは既に述べたように、主に「筋肉・脂肪でのブドウ糖代謝が低下している」「肝臓での糖取り込みが低下している」「ホルモンの分泌異常」という3つの原因が考えられます。
・筋肉、脂肪でブドウ糖の代謝が低下している
糖質制限をしていると、食事から得られる糖分が極端に少なくなります。ただ、「糖新生」と呼ばれるメカニズムによって、体に必要な糖分はタンパク質や脂肪から作られるため問題ないのです。
しかし、糖新生では必要最低限の糖分量しか作られません。具体的には、糖からしかエネルギーを産生できない、脳の一部と赤血球が必要な糖分量です。
このとき、筋肉は糖分ではなく脂肪などからエネルギーを作りだしています。脳や赤血球が糖からエネルギーを産出できない一方で、筋肉は脂肪からエネルギーを作り出せるのです。
既に述べたように、糖新生で作られる糖分量は限られています。そのため、糖質制限をして血糖の維持を糖新生に依存している人の筋肉では、糖ではなく脂肪がエネルギー源として優先的に利用されるのです。
そうすることで、糖新生によって作り出した糖を、脳や赤血球に届けられるようになっています。
糖質制限者が、食事によって糖質を摂取すると血糖値が急上昇する理由の一つには、このことが関係しています。糖質制限をしていると、肝臓から血液中に送り出された糖分が、筋肉に取り込まれずにそのまま血糖値として反映されるのです。
このように、糖質制限をすると筋肉や脂肪による血糖の取り込みが少なくなるため、その分だけ食後の血糖値が上がります。
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・糖質制限ダイエットで低血糖が起こらない理由:糖新生のメカニズム
・肝臓での糖取り込みが低下している
糖質制限をしていると、筋肉と同じように肝臓での糖の取り込みも悪くなります。その結果、通常であれば肝臓で吸収される食事に含まれる糖分は、そのまま血液中に流れ出て、血糖になるのです。
このように、糖質制限をしていると、筋肉や脂肪、肝臓における糖の取り込みが低下するために、食後の血糖値が上がりやすくなります。
・ホルモン分泌が異常をきたしている
通常、血糖値が上昇すると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されます。その一方で糖質制限をしている人は、インスリンの拮抗ホルモンで血糖値を上げるホルモンである「グルカゴン」の分泌が強くなっているのです。
健康的な体では、糖質を摂ると血糖値を上げすぎないようにインスリンが作られます。そして、インスリンにはグルカゴンの分泌を抑える作用があるため、血糖値はすんなりと下がっていくのです。
しかし、糖質制限をしていると、糖質を摂取したときにグルカゴンが抑制されなくなってしまいます。
糖質制限をしていると、インスリンの分泌が悪くなります。普段からインスリンを使っていないため、いざ糖質を摂ったときに膵臓が反応してくれないのです。
既に述べたように、糖質摂取時にはインスリンが分泌されることでグルカゴンによる血糖値上昇が起こりません。これが、糖質制限によってインスリンの分泌が悪くなっていると、グルカゴンの分泌が抑えられないため、血糖値が急激に上がってしまうのです。
このように、インスリンとグルカゴンという血糖調整に関わるホルモンの分泌異常も、糖質制限者で急激な血糖値上昇が起こるメカニズムの一つになります。
糖質制限時の糖質摂取による血糖値の急上昇は一時的であれば問題ない
ここまで述べたように、糖質制限をしていると食後の血糖値が上がりやすくなります。しかも、血糖値の上昇はあなたが想像している以上に大きく、食後30分の血糖値が200を超える人もたくさん存在します。
いってしまえば、糖尿病の人のような状態になってしまうのです。
それでは、糖質制限は血糖値のコントロールを乱すために避けるべき食事法なのでしょうか?
結論から述べると、糖質制限によって招かれる食後の血糖値上昇は過度に心配する必要はありません。ただ、状況によっては問題となるため、注意するしなければいけないのです。
糖質制限時の食後血糖値の急上昇は生理的反応
糖質制限時に食後の血糖値が急上昇する現象は、基本的に気にする必要はありません。糖新生で作り出された限られた糖を、無駄に使わないように適応した結果として起こっている現象であり、生理的な反応であるためです。
こうした現象は一時的なものであり、基本的には数日間糖を摂取すると戻ります。
例えば、初日で食後30分の血糖値が200まで上がっていたとしても、同じ量を2日、3日と続けて摂れば食後30分の血糖値も160、140と少しずつ上昇する幅が小さくなります。
ただ、このときには糖質の摂り方を注意しなければいけません。いきなり、甘いパンやケーキを大量に食べると、血糖値が上がりすぎて体調を崩してしまう可能性があるためです。糖質の摂り方に関しては「糖質制限ダイエット実践者必見!糖質の正しい摂り方」を読んでください。
このように、糖質制限時における食後の血糖値上昇は生理的で一時的な現象であるため、さほど心配する必要はないのです。
何度も血糖値の変動を繰り返すのは問題
そうはいっても、血糖値の大きな変動は体にとって負担となることは間違いありません。血糖値が上昇すると、血管を傷つけて動脈を硬くするためです。
そのため、短期的に血糖値が大きく変動することはさほど気にする必要はありませんが、それを何度も繰り返すのは問題です。動脈硬化を促したり、その都度血糖値の大きな変動によって体調を崩したりする可能性があります。
そうしたことを避けるためにも、糖質制限をしているのであれば、糖質に対する血糖値の変動を確認しておくようにしましょう。
数日糖質摂取をしても血糖値の変動が戻らない人がいる
厳格な糖質制限を長期的に行っていると、糖質に対する過敏な反応(急激な血糖値の上昇)が数日でおさまらなくなる場合もあります。
つまり、全く糖質を摂らなければ問題ないのですが、少しでも糖質が含まれる食べ物を食べると、そのたびに血糖値が多きk変動して、体調不良を起こしたり、動脈硬化を進行させたりすることにつながるのです。
例えば、結婚式や外食でどうしても糖質が入った料理を食べなければいけないときはあります。そうした機会で糖質を食べた後に頭痛がしたり、頭がボーっとしたりします。このように、糖質を摂ることでお酒に酔ったような状態になることを「糖質酔い」といいます。
また、わずかな糖質による大きな血糖値の変動で、気付かない間に動脈硬化が進行してしまう可能性もあるのです。
長期的に糖質制限をしていると、数日間の糖質摂取だけでは血糖値が戻らなくなる可能性があることを知っておいてください。
糖質制限を止めても食後血糖値の急上昇がおさまらない原因
ここまで述べたように、糖質制限をしている人が一時的に食後の血糖値が上昇しやすくなることは普通です。ただ、糖質制限を止めたあとにも、食後の血糖値が上がりやすくなっているのは問題です。
既に述べたように、糖質をわずかに摂るたびに血糖値が変動して糖質酔いを起こしたり、動脈硬化を進行させたりする可能性があります。
そこで、糖質制限を止めても食後における血糖値の急上昇がおさまらない原因について解説します。
エネルギー不足解消のために血糖値を高く維持している
糖質制限をしている人の中には、脂肪から上手くエネルギーを作り出せない人も存在します。そうなると、どれだけ脂質が豊富な食べ物を食べても、エネルギー不足となってしまうのです。
通常、食べ物を食べるとインスリンが分泌されることによって糖新生はおさまります。しかし、インスリンが分泌されなかったり、インスリン抵抗性でインスリンの効きが悪くなったりしていると、糖新生が抑えられなくなるのです。
糖尿病の人が食後に血糖値が急上昇するのは、こうしたインスリンの分泌不足もしくは作用不足が関係しています。
実は糖尿病でなくても、糖質制限によって体でエネルギー不足が起こっているときには、糖新生が抑えられずに食後の高血糖が起こる可能性があるのです。
糖質制限によって体内でエネルギーが不足していると、体は効率的なエネルギー源である中性脂肪を溜め込もうとします。血糖を増やすと、体に中性脂肪を溜め込みやすくなります。血糖は、脂肪細胞に摂り込まれると中性脂肪に変換されるためです。
糖質制限をしていてエネルギー不足の状態にある人は、通常であれば食事によって刺激されるインスリン分泌が抑えられている、もしくはインスリンの効きが悪くなる可能性があります。その結果、肝臓での糖取り込みが悪くなったり、糖新生がおさまらなかったりすることで血糖値が高くなるのです。
いってしまえば、体が血糖を介してエネルギー源である中性脂肪を作ろうとした結果として、血糖値が上がってしまうのです。
このように、糖質制限によってエネルギー不足に陥っている人は、エネルギー不足解消のために、食後における血糖値の急上昇がおさまりにくくなっています。
ブドウ糖がエネルギー源として使えなくなっている
既に述べたように、糖質制限をしているとブドウ糖ではなく脂肪やケトン体をメインのエネルギーにします。そのため、ブドウ糖を代謝する機会が少ないです。
ブドウ糖代謝の低下が、一時的なものであれば問題ありません。ただ、長期的に厳格な糖質制限を続けていると、ブドウ糖代謝が戻らなくなってしまう可能性も否定できないのです。
いってしまえば、ブドウ糖を代謝する体の仕組みが錆び付いてしまって、もう使えなくなってしまったということです。
通常、ブドウ糖は以下に記す過程を経てエネルギーに変換されます。
これが、以下の図に記すように、エネルギー産生の過程が妨げられると、ブドウ糖が代謝されなくなります。
その結果、細胞内にブドウ糖が取り込まれなくなって糖質を摂るたびに血糖値が急上昇することになります。イメージとしては、細胞内での代謝がストップすることでブドウ糖が細胞内にあふれてしまうって、血液中から細胞内に入れなくなってしまっているのです。
このように、糖質制限によってブドウ糖がエネルギー源として利用できない体になってしまう可能性もあるのです。
今回述べたように、糖質制限をしていると食後の血糖値が急上昇しやすくなります。この問題を、一時的なものであるか長期的なものであるかを判断するのは、体の健康について考える上では非常に重要です。
糖質制限をしていて食後の血糖値上昇が激しい人は、こうした食後血糖値上昇のメカニズムを頭に入れた上で、対処法を考えるようにしましょう。