日本人には、3食しっかりと食事を摂る人がほとんどです。そして、必ずといっていいほど毎食「主食」と呼ばれる米や小麦を食べます。
米(ご飯、米粉パン)や小麦(パン、うどん、パスタ)などの主食とされる穀物は、一見すると体に良い影響を与える食品のように思えます。ただ、体に与える影響は砂糖と変わりありません。
他にも、お菓子やイモ類、砂糖、ジュースに含まれている「果糖ブドウ糖液糖」なども全て原料は穀物であるといえます。
また、私たちが普段食べている牛肉や豚肉、鶏肉の飼料にもトウモロコシ(穀物)が使われています。
このように、私たちの食生活にはかかせない穀物ですが、健康だけでなく環境にもさまざまな影響を与えることがわかってきています。
中でも、「穀物の生産が環境破壊を引き起こす原因になりうる可能性がある」ということは、多くの人に知られていない事実です。健康維持や環境保全のためには、こうした側面にも目を向けることが大切です。
そこで今回は、私たちの食事が環境へもたらす影響を違った視点から解説します。
穀物と人間の関係性
日本人のほとんどは、主食として穀物を1日に3回食べています。そして、穀物には多量の糖質が含まれています。つまり、日本人は糖質を大量に摂取しているといえます。
糖質は体のエネルギー源となるものですが、体に与える害も少なくありません。肥満は糖質の弊害として知られる代表例です。糖質の摂取によって体の中性脂肪が燃焼しにくくなるだけではなく、食事から摂った脂質を中性脂肪として体に蓄積するように働きます。
このように、糖質の過剰な摂取は肥満という健康問題を引き起こす大きな原因になります。
しかし、実際には糖質の過剰消費における問題は、人間の体だけではなく環境にも悪影響を与えていることがわかっています。
人間が食事で摂取する糖質とは、基本的に穀物です。具体的には、以下のようなものが例として挙げられます。
・米:ご飯、パン粉、スナック菓子
・小麦:パン、うどん、パスタ、お菓子
・トウモロコシ:油、お菓子、果糖ブドウ糖液糖
・芋類
・サトウキビ、甜菜(てんさい);砂糖
このように、私たちが普段から摂取しているものの中には、非常に多くの穀物が含まれていることがわかります。
さらに、私たちが普段食べている牛肉や豚肉、鶏肉の飼料も穀物であるトウモロコシからできています。つまり、以上に挙げた穀物以外の食べ物の多くにも、穀物が関係していることがわかります。
こうして考えることで、人間がどれだけ穀物に依存しているかが理解できます。
穀物について考える際には、まずはこのように「人間は穀物に依存している」ということを認識しておくことが大切です。
穀物生産の問題点
現代における人間の食生活は、穀物に依存しています。そして、毎食時に当たり前のように穀物を食べているため、穀物が絶えることはないように感じている人も少なくありません。
しかし実際には、穀物生産にも限界があります。穀物の生産は、永続的に続けて収穫ができる持続可能型の農業と考えられていましたが、実は環境破壊型の持続不可能な農業システムであることが明らかになっています。
穀物生産が環境破壊型である理由には、主に大きく「窒素肥料の弊害」「塩害」「地下水の枯渇」という3つの問題が挙げられます。
窒素肥料の弊害
穀物栽培の始まりは、1万数千年前に始まったといわれています。そして、当初から1950年までは、農機具などが変化した程度で、基本的な生産方法はほとんど変わっていないとされています。
1950年代までの穀物栽培は、耕地面積に比例して収穫量も増えるような栽培方法でした。つまり、穀物生産量を増やすためには、耕地面積を大きくする必要がありました。
しかし、1960年代に始まった「大量の化学肥料や農薬の使用」「機械化と大規模化」「品種改良」「灌漑(かんがい)技術の進歩」などによって、単位面積あたりの収穫量が、それまでとは比べものにならないほど増えることになりました。
こうした穀物生産に起こった大革命は「緑の革命」といわれます。
そして、緑の革命の中でも穀物の収穫量を増やすことに大きな影響を与えたのは、「窒素肥料の開発」と「灌漑技術の進歩」の2つになります。
穀物を育てるためには、土壌中に一定量以上の窒素濃度が必要になります。ただ、穀物を育てるたびに土壌中の窒素は失われていきます。そのため、同じ土地で繰り返し穀物を作ることが難しいという現状がありました。
それが、窒素肥料が開発されたことによって、空気から窒素を合成して土壌に投与することができるようになりました。その結果、同じ土壌で何度も穀物を作ることが可能となりました。
ただ、過剰に投与した窒素肥料は、湖や海に流れ出ることで「富栄養化」という問題を引き起こしました。
富栄養化は、光合成を行う植物を増やし、それを食べて成長する植物性プランクトン、さらに植物性プランクトンを餌とする動物性プランクトンの増殖を促します。その結果、「赤潮」という環境問題につながり、漁業に大きな悪影響を与えることになります。
さらに、土壌に投与された窒素は、地中に存在する微生物の作用によって「硝酸」に変化します。大量に発生した硝酸は、「地下水汚染」の原因となってしまいます。
このように、窒素肥料の開発は、土壌の連鎖障害を防ぎ大量の穀物生産を可能にした代わりに、赤潮や地下水汚染という環境問題を引き起こす原因となっていることを知っておいてください。
塩害
緑の革命において、窒素肥料と同じくらい穀物生産に影響を与えたものが「灌漑技術の進歩」です。
灌漑とは、「農地に他の場所から人工的に水を供給すること」をいいます。灌漑技術が進歩したことで、乾燥した土地を穀物生産ができるように変えることが容易になりました。
その一方で、同じ耕地に対して大量に水を撒くことで、「塩害」という環境問題を引き起こすことになりました。
大量に撒いた水は地中に浸透し、奥深くに存在している塩と混ざった結果、塩水となります。そのようにして作られた塩水は、浸透圧差によって、徐々に地表に向かって上昇します。そして、最終的に地表で水分が乾燥して塩だけが残ることになり塩害を引き起こします。
こうして塩害が出た土地では、作物が栽培できないようになります。
このように、灌漑技術の進歩によって、大量の水を農地に供給することが出来るようになり、農作物を作ることができる土地を増やすことが可能となりました。ただそれと同時に、灌漑農法は塩害を引き起こし、作物を栽培不可能な状態にすることも理解しておく必要があります。
地下水の枯渇
小麦粉を中心とした穀物の多くは、アメリカやカナダ、オーストラリアで作られています。その中でも、アメリカ中西部は特に穀物生産の中心地となります。
そしてアメリカ中西部には、「オガラナ帯水層」というアメリカ全土の灌漑に使われる水の30パーセントをまかなえるくらいの地下水が見つかりました。ただ、こうした大量の地下水も、急な人口増大と大量の穀物生産・消費によって、後数十年で枯渇する可能性が示唆されています。
このように穀物を中心とした食生活は、オガラナ帯水層の地下水を大量に消費することにつながります。つまり、アメリカ中西部における穀物農業は、地球の地下水をどんどん消費し、いずれは水不足を引き起こす環境破壊型農業であるといえます。
大量の穀物生産・消費は、いずれは地球の地下水を枯渇させることになることにつながります。
今回述べたように、確かに穀物は多くの人のエネルギー源となっているものです。しかし、大量の穀物生産は、近い将来には「赤潮」や「地下水汚染」「塩害」「水不足」という環境問題を引き起こす環境破壊型の農業だといえます。
こうした事実を理解した上で、穀物中心となっている普段の食生活を考えることが大切です。