ほとんどの人は、障害が発生した後に病院に通います。具体的には、「膝が痛くなった」「肩が動かなくなった」といった訴えがあります。
「膝の痛みを予防したい」「五十肩にならないための方法を知りたい」と、障害の予防を目的に病院に通う人はいません。
私は理学療法士として様々な患者の障害を観察してきました。その経験から、障害は、発生してから改善するよりも、未然に防ぐことの方が簡単であり重要であると考えています。
それは、障害の予防はあなた自身が行えることだからです。また、障害は起こった後から治療すると、どうしても時間がかかります。
そのため、障害を予防する方法を知り、未然に障害を防ぐことができるようになることが大切です。そのためには、障害が起こる前に起こる体の変化に気づき、その段階で対処を行う必要があります。
そこで今回は、障害発生前に起こる、体の変化について解説します。
体の変化に気づく大切さ
理学療法士のような人の体に対して治療を行う者にとって、患者さんの変化に気づくことは、とても大切です。
その変化とは、「歩き方がいつもと違う」「立ち上がり方が何か変わっている」などのちょっとした動作の異変があります。そのほかに「化粧が濃い」「落ち込んでいる」といったような、様子や雰囲気の変化も含まれます。
理学療法士が対応する症状のほとんどは、動作の問題です。しかし、実際には、訴えが出現する前に、本人が気づかないようなサインが出ていることがほとんどです。
例えば、整形外科で訴えられる症状には「痛み」が多いですが、そのような訴えが出現する前に、必ず何かしら体の不調が認められます。
私の場合、睡眠不足やストレスが強くなると、右の頚に痛みが出現します。そして、実際に症状が出る前には、睡眠不足による「日中の眠気」や、ストレスによる「胃の痛み」などが認められます。
このような症状が出ているときには、まだ頚の疼痛は現れていません。しかし、このサインを無視して、睡眠時間を確保しなかったり、ストレスコントロールを行わなかったりすると、頚の痛みが出現します。
これは、患者さんでも同じです。誰であっても、病院に行くような症状が出現する前に、何かしらのちょっとした不調が変化として表れています。
そのため、この段階で問題を対処すると、痛みなどの症状が出現する前に予防できるといえます。このような理由から、理学療法士はもちろんのこと、患者さん自身が体の変化に敏感であることは大切だといえます。
障害前に起こる変化
私は、さまざまな研究や、臨床経験から、内科的な疾患であっても、整形外科的な疾患であっても、症状の原因のほとんどは自律神経の不調にあると考えています。
例えば、四肢の関節痛も同様です。その障害発生プロセスは以下の通りです。
「自律神経の不調 → 背骨の柔軟性低下 → 筋肉の硬さ → 関節痛」
ほとんどの関節の場合は、このようなプロセスをたどって痛みが出現します。
関節痛とは「肩」「肘」といったあらゆる部位が含まれています。これらの関節の痛みは、まず筋肉が硬くなって起こります。
そして、それらの筋肉の硬さは体の中心に位置する背骨から来ています。背骨は四肢の関節すべての筋肉とつながっています。つまり、背骨の緊張により、各関節の痛みにつながります。
背骨は生命維持に関わる神経として知られる自律神経と密接に関係しています。そして、自律神経の働きが悪くなると、背骨の柔軟性が低下し、生活に影響を与えます。
つまり、関節痛という症状が発生する前に、筋肉の硬さや背骨の柔軟性低下、自律神経の不調などの変化が体に現れていると考えられます。
そのため、そのような変化を自分自身で見つけて対処することで、関節痛の発生を防ぐことができます。
自律神経から考える障害プロセス
また、自律神経の不調は、睡眠や内臓に問題が生じることで起こります。そのため、自律神経が乱れると、眠気や内臓の症状が出現します。例を挙げると、胃の問題であれば「口臭の変化」、腸であれば「便秘や便の形状の変化」、肝臓では「倦怠感」といったものです。
つまり、先ほど述べた障害プロセスは、以下のようになります。
「自律神経の不調 → 眠気、内臓の変化 → 背骨の柔軟性低下 → 筋肉の硬さ → 関節痛」
このことから、最も初期の段階で障害発生のプロセスに気づくためには、眠気や内臓の変化を察知する必要があると言えます。この段階で体の変化に気づき対処することで、背骨や筋肉の硬さなども現れる前に、障害を予防することができます。
そして、この段階での対処法のほとんどは、生活習慣の改善になります。なぜなら、自律神経の不調は、睡眠不足や食事の不摂生といった生活習慣の崩れから生じるためです。
そのため、この段階で気づけば、あなた自身が生活習慣を見直すだけで、障害が予防できると言えます。
一方、背骨の柔軟性が低下したり、筋肉の硬さが出てきたりしている場合は、理学療法士などの専門家に力を借りなければ改善が難しくなります。具体的には、硬くなった部位を適切に軟らかくするためのストレッチ方法や、理学療法士による施術などを受ける必要があります。
このような理由から、眠気や内臓の変化に気づくことは、障害を予防する上でとても大切だと言えます。
今回述べたように、障害を予防するためには、あなた自身がちょっとした体の変化に気づくことが大切です。そのことによって、より早期の段階で障害発生プロセスを阻止することができます。
障害の予防は、対処するタイミングが障害発生プロセスの早期であるほど簡単で、体にとって負担が小さいものです。あなた自身における体の変化に敏感になり、より早い段階で障害発生の徴候を発見し、対応できるようにしましょう。そうすることで、より健康な体を維持することができます。