痛み止めや湿布といった、いわゆる消炎鎮痛剤は、多くの人が常用しています。病院に通う人はもちろんのこと、若い人から高齢の方まで、幅広い年代の人が日常的に使用しています。
確かに消炎鎮痛剤は、手軽に使えて、副作用が少ないように感じます。とくに湿布は、飲み薬と違い、胃腸に対する副作用がほとんどありません。そのため、湿布を使ったときに、害はほぼ感じないはずです。
しかし、消炎鎮痛剤は、多くの慢性痛を作り出していることを理解しなければなりません。確かに、消炎鎮痛剤を使う場合に、明らかに体に現れるような副作用は、ほとんど起こりません。しかし、使えば使うだけ確実に体に悪影響を与えています。
そこで今回は、消炎鎮痛剤に関して、私見も含めて解説します。
消炎鎮痛剤は炎症を抑制する
消炎鎮痛剤は、その名の通り炎症を抑える作用があります。そのため、炎症反応による疼痛を軽減させる効果があります。しかし、言い換えると、炎症ではない痛みには効果がありません。
このことは、医学の世界では共通認識になっています。さらに、慢性痛に消炎鎮痛剤は効きません。多くの人がこの事実を知らずに、長期的に痛み止めや湿布を利用しています。
そもそも、炎症にはどのような意味があるのかを考える必要があります。炎症反応は、損傷した組織が治るために起こるものです。つまり、体が治癒するためには欠かせないものです。
炎症反応が起こらなければ、傷ついた組織は治ることはありません。そして、組織が治る過程で、腫れたり、痛みがでたりするのです。
そのため、炎症による疼痛は、体が治る過程で起こっているのです。つまり、痛みは結果であって、原因ではありません。そのような症状が出現しているということは、正常に治癒反応が進んでいるという証拠です。
消炎鎮痛剤は、このような炎症反応を抑制します。簡単に言ってしまえば、体が治るために起こっている反応を無理やり押さえつけるということです。
具体的には、炎症反応の過程では、損傷した組織を修復するために、通常以上の血流が必要になります。そのため、血管を拡張して血液量を増やします。そのために血管を広げる作用のあるホルモンが分泌されます。
そのホルモンは「プロスタグランジン」といい、血管を拡張する役割の他に、痛みや発熱などの症状を誘発します。
そして、消炎鎮痛剤は、このプロスタグランジンの生成を抑えることで、痛みを抑えます。
しかし、先ほども述べたように、プロスタグランジンには、損傷した組織を修復するために、血管を拡張する働きがあります。そのプロスタグランジンの産生が抑えられると、血管は充分に広がらず、組織に必要な血液量が届かなくなります。
つまり、消炎鎮痛剤によって、痛みは抑えることができますが、同時に、治るために必要な血液量の増大まで抑制されてしまうのです。
そのため、消炎鎮痛剤を使用すると、組織の修復が止まり、結果的に痛みが慢性化するということです。
消炎鎮痛剤が有効な場合
消炎鎮痛剤が、慢性化した痛みに効かないということは、先ほど述べました。これは、慢性化した疼痛の改善には、血流の流れが必要だからです。
基本的に疼痛が出現しているということは、そこに痛みを誘発するような疼痛誘発物質があると言うことです。通常では、そのような物質は必要がなくなると、血液中に入り込み排泄されます。
しかし、痛みが慢性化している場合の多くは、疼痛誘発物質の排泄が阻害されています。つまり、血流の流れが滞ってしまい、痛みを作り出す物質もその場に残ってしまうということです。結果的にずっと痛みが続いてしまいます。
そのため、消炎鎮痛剤を慢性痛に使用することは、血流が悪くて痛みがある状態に、さらに血液の流れを悪くするような処置(消炎鎮痛剤)をしていることになります。
これでは痛み治らないのは当たり前です。では、消炎鎮痛剤は意味がないのかというと、そうではありません。
炎症が起こっている場合、痛みを伴います。疼痛はほとんどの人にとって不快なものです。また、あまりに症状が強いと眠ることができないことがあります。このような場合に、対処的に消炎鎮痛剤を使用することは有効です。
痛みによるストレスや睡眠不足などは、血流の流れを悪くするため、傷の治りを遅くします。そのような強い痛みがある間は、消炎鎮痛剤は有効です。
問題なのは、慢性的に消炎鎮痛剤を使用することです。炎症のときの強い痛みが治まった後に、使用を中止すればいいだけです。
今回述べたように、消炎鎮痛剤は、体の自然な反応を無理やり止めて痛みを抑えます。そのため、基本的には使用しない方が良いです。しかし、あまりに疼痛が強い場合は、その症状自体が傷の治りを妨げます。そのため、このときに一時的な対処として、消炎鎮痛剤を使用するのは有効です。
炎症の過程と薬のメカニズムを知ることで、上手に消炎鎮痛剤と付き合っていくことが大切です。