怪我を予防したり、痛みを解消したりするために、背骨の柔軟性が大切なことは多くの人が認識しています。しかし、その中でも胸椎(胸の骨)の柔らかさが重要なことを知っている人は少ないです。
胸椎は、自律神経と深い関係にあります。自律神経が乱れると、胸椎の動きが制限されます。そして、胸椎の硬さは頚椎(首の骨)や腰椎(腰の骨)に影響して、最終的には手足の関節などの不調につながります。
こうしたことから、背骨の中でも胸椎は非常に重要だといえます。
そのため、怪我を予防したり、痛みなどの不調を解消するために胸椎と自律神経について学んでおくことは大切です。
そこで今回は、胸椎と自律神経の関係について解説します。
胸椎の特徴
背骨は、上から頸椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)という順に並んでいます。そして、頚椎と腰椎は前方に凸の形状、つまり「前弯(ぜんわん)」しており、胸椎は後方に凸、「後弯(こうわん)」し、背骨全体でS字状の形をしています。
胸椎には、肋骨が付着しており、胸郭(きょうかく)を作ります。そのため、胸椎は肋骨によって動きが制限されています。また、呼吸は胸郭の運動によって達成されるため、胸椎は呼吸にも深く関係しています。
また、胸郭の上には肩甲骨が筋肉を介してついています。肩甲骨は、肩関節を構成する要素であり、肩甲骨の動きが制限されると、肩には負担がかかります。
そして、胸郭の上に位置する肩甲骨は、胸郭の柔軟性に影響されます。そのため、胸郭の柔らかさがないと、肩甲骨の動きも悪くなり、肩を痛める原因となります。実際、肩関節が痛い人のほとんどは、肩甲骨の可動性が制限されています。
さらに、胸郭は骨盤と連動して、歩行時の横方向への動揺に対応します。そのため、胸郭の柔軟性は、歩行時のバランスにも関係します。
このように胸椎の柔軟性は、呼吸や手足の運動など、さまざまな動作に関係しています。
胸椎と自律神経の関係性
胸郭は、ほとんどが自律神経の影響で柔軟性が低下します。自律神経とは、心臓や血管などの臓器の運動を無意識下でコントロールする神経です。また自律神経は、興奮時に働く「交感神経」と、リラックス時に関わる「副交感神経」に分かれます。
そして胸椎は、このうちの交感神経と深い関係にあります。
交感神経は、胸椎の中にある「胸髄」と呼ばれる脊髄から出ます。胸髄を出た後は、各臓器に向かいますが、その途中で、「交感神経節」という神経の中継点を通ります。
また交感神経は、胃や腸といった各臓器を支配しており、臓器の状態を脊髄に伝えます。そのため、もし内臓に不調が生じ、情報が脊髄に伝えられると、その刺激は中継点である交感神経節に反射性の反応を起こします。
その反射は、専門用語で「内臓体性反射」といいます。そして内臓体性反射は、背骨、特に交感神経が出る胸椎の周りの筋肉を硬くします。そうなると、結果的に胸郭の動きは制限されます。
つまり、「内臓の不調 → 交感神経 → 交感神経節(内臓体性反射) → 背骨の筋肉の緊張 → 胸郭の柔軟性低下」という流れで胸郭の柔軟性が低くなります。そのため、食生活の不摂生で内臓に問題が生じると、胸郭の柔軟性が低下して、最終的には呼吸や手足の動きなど、さまざまな動作が障害されて、関節痛などの不調につながります。
以上のように、胸郭は肩をはじめとする上肢の運動や、歩行時のバランスなどに関係します。そして、胸郭は自律神経の影響を大きく受けるため、自律神経に支配される内臓に問題が生じると、柔軟性が低下します。
このように胸郭は、体の運動機能と自律神経をつなぐ中継点になっています。そのため、胸郭の柔らかさを維持することは、運動機能、自律神経の両方に良い影響を与えるため、とても大切になります。