体の機能

生命維持に必須の呼吸運動の重要性ついて学び障害予防に生かす

呼吸運動は、生きていれば誰でも行っている運動です。むしろ当たり前の運動であるため、あまり意識されない傾向にあります。
その一方で、呼吸運動は体にとってとても大切なものなので、少しでも健康に気を使っている人は、呼吸についても興味を持っている人が多いです。
そこで今回は、呼吸について述べます。
 「胸式呼吸」と「腹式呼吸」
一般的に呼吸には、「胸式呼吸」と「腹式呼吸」の2つがあることが知られています。とくに健康に関するメディアでは「腹式呼吸が大事である」ということが言われています。しかし、運動機能の専門家である理学療法士としては、一概に腹式呼吸の方が重要だとは言えません。
呼吸は、肺がある「胸腔」というスペースが膨らんだり縮んだりすることで行われます。
胸腔とは、その空間の前後、上、左右の壁を作る「胸郭」と、下の壁に当たる「横隔膜」で構成されます。さらに胸郭は、前方の中心に位置する「胸骨」、後方の背骨の一部である「胸椎」、胸骨と胸椎をつなぐ「肋骨」から成ります。
胸式呼吸と腹式呼吸の違いは、この胸腔の膨らむ場所の違いにあります。胸式呼吸は、肋骨を中心とした胸郭の動きで行われます。そのため、胸全体が広がるような運動になります。
一方、腹式呼吸は下方の壁である横隔膜の動きによって、胸腔の大きさが変化します。横隔膜の下には、胃や肝臓などの内臓が位置します。
腹式呼吸では、横隔膜が下にさがることで胸腔を広げるため、内臓が上から圧迫されて、前方に押し出されます。そのため、お腹を使って呼吸を行っているように見えます。
この特徴ゆえに、腹式呼吸が大切だと言われているのです。横隔膜は、姿勢にも影響しますし、内臓の運動が促されると、体はリラックス状態になります。そのため、姿勢が悪い人や体が緊張している人には腹式呼吸はお勧めです。
 胸式呼吸の特徴
一方、胸式呼吸が体に良くないかというと、そうではありません。
確かに、激しい運動を行ったときなどに特徴的な胸式呼吸は、「呼吸補助筋」といって通常では使わないような首周りの筋肉を過剰に収縮させます。そのため、肩こりや首の痛みなどを引き起こします。また、そのような呼吸は、自律神経系のバランスを乱します
しかし、先ほども述べたように、胸式呼吸は肋骨や胸椎などの胸郭の運動で行われます。実は、胸郭は自律神経系と深い関わりがあります
自律神経系が乱れると、胸郭の動きは制限されます。逆に、胸郭の動きを促すと、自律神経が調整されます。そのため、胸式呼吸によって胸郭の運動を行うことは、結果的に自律神経系のバランスを整えることにつながります。
このときに注意することは、過剰な胸式呼吸にならないことです。そのような状態では、先ほども述べたように、逆に自律神経系のバランスが悪くなります。そのため、落ち着いた状態で胸式呼吸を行うことが大切です。
そもそも、呼吸運動を意識的にコントロールすることが、自律神経系を調整することにつながります。そのため、呼吸におけるポイントは「胸式、腹式どちらであっても意識的に行えること」です。
以上のように、胸式呼吸でも腹式呼吸でもそれぞれ重要な役割があります。大切なことは「落ち着いた状態で意識的にどちらの呼吸も行えること」です。とくに胸式呼吸においては、無意識に過剰に行っていると、首周りの筋肉が硬くなるというようなことが起こります。
これを機会に、普段からあなたがどのような呼吸を行っているのかについて、意識を向けてみてください。