痛み・疼痛

痛みはなぜ生じるのか:炎症反応に伴う疼痛の意味を知る

痛みは多くの人が悩まされるものです。整形外科を受診する人のほとんどは、疼痛(とうつう)の訴えをもっています。そして、早く治る人もいれば、症状が長く続き、何年間も同じ悩みで病院に通っている人もいます。
それは、痛みには多面性があり、その人の「気持ちの持ち方」や「物のとらえ方」が関係しているためです。疼痛という感覚は、脳のさまざま場所とつながりを持ち、形成されます。
このように痛みは、さまざまな場所が複雑に関係して作られるため、怒りなどの感情によって痛みが強くなることもあれば、逆に疼痛という刺激によって「イライラ」などの情動が生じたりもします。また、過去の経験やその人の「物事に対する考え方」でも症状の出かたは変わりますし、そのときの生活状況によっても変化します。
もちろん、痛みの多くは、「侵害刺激(しんがいしげき)」によって組織に傷がついたときに起こります。しかし、症状が長くなるほど、感情などの脳による影響が強くなり、何が問題なのかが判断が難しくなります。
そのため、まずは組織が傷ついたときに起こる疼痛について理解しておくことが大切です。そうすることで、どの程度痛みに脳が関係しているかを予測することができるようになります。
そこで今回は、組織の損傷によって生じる痛みについて解説します。
 組織が損傷すると、なぜ痛いのか?
組織の損傷によって生じる痛みのほとんどは、炎症反応の結果として起こるものです。体は、組織に傷がつくと、その傷を修復しようとします。これは、生物であれば誰にでも起こる反応であり、「自然治癒力」といいます。
炎症反応は、一般的には体に悪いようなイメージがあると思いますが、それは間違っています。組織の修復には炎症が不可欠であり、その反応なしに傷ついたものが治ることはありません
炎症を引き起こす原因には、体の外からの有害な刺激によるものと、体の中で生じる問題の2つがあります。外からの要因には、熱や強い圧迫、針で刺すといった「機械的刺激」などがあります。その一方で内の要因には、免疫システムの異常によるアレルギーや、代謝の乱れで起こる痛風(つうふう)などがあります。
整形外科に通う患者さんの多くは、外からの有害刺激、特に機械的刺激による痛みがほとんどです。背骨や骨盤の問題から、体のある一カ所の筋肉や関節に過剰な力が加わることで、組織が傷つき炎症が生じます。
そして、その過剰な力が持続して加わり続けるか、何らかの原因で炎症反応がスムーズに進まないと、組織の損傷は治りません。症状が長期に及ぶと、最初は純粋に傷の修復のために生じた炎症による疼痛だったものに、徐々に脳の影響が加わり複雑化します。
そのため、組織の損傷による疼痛は、早期に過剰な力を取り除き、炎症をスムーズに終わらせ、症状を長期化させないことが大切になります。
 炎症反応について
炎症反応の目的は、傷ついて壊死(えし)した細胞を取り除くことと、損傷した組織を修復することです。この2つの目的を達成するために、さまざまな細胞や化学物質が関わり、傷ついた組織を治します。
組織が損傷すると、組織を構成している細胞にも傷害が生じます。そして、その細胞は最終的に壊死します。こうして壊死した細胞は、組織が修復するときには必要ないため取り除かれます。
そのときに働くのが「白血球」と呼ばれる免疫に関わる細胞です。白血球は、壊死した細胞を食べて消化します。そして、その細胞が白血球によって破壊されるときに、細胞内に含まれていた化学物質が流出します。この化学物質は、周囲の細胞にさまざまな反応を引き起こします。
また、炎症には、血管の反応が欠かせません。組織が損傷すると、周りの血管も傷害されるため、出血が起こります。そのため、受傷直後は止血が必要となるため、血管が収縮して血流を止めようとする反応が起こります。
一時的な血管の収縮に続いて、今度は血管の拡張が起こります。これによって、腫脹(しゅちょう)や熱感などの、炎症に特有の症状が出ます。
また、白血球が損傷部位に集まるためには、血管が広がった後に、血液内から組織の中に移動する必要があります。組織と血液内は、血管の壁で仕切られています。そのため、反応の過程で生じた化学物質の働きによって、血管の細胞間にある結合部分が開き、白血球が血管を通過できる状態になります。
そして、既に述べたように、白血球は損傷が起こった組織の中に入り、壊死細胞を除去します。その後、白血球は自ら消滅するか、血液と共に不要物質を排泄する働きをもつ「リンパ」と呼ばれるものを通って、その場を去ります。
このような過程で炎症反応は終わります。
炎症反応による疼痛は、血管の収縮や拡張などの反応を引き起こすために発生した化学物質によって引き起こされます。このような理由からも、炎症による痛みは、組織が治るために不可欠なものだといえます。
以上のことから、炎症によって生じる痛みや腫れ、熱などの症状は、組織が治る過程で起こるものだといえます。そのため、これらの反応は体にとって必要不可欠なものです。
多くの人が、疼痛があれば「痛み止め」で症状を無理やり抑えようとします。しかし、今回述べたような炎症のメカニズムを考えると、そのような対処は、組織が治る反応を止めていることだということがわかります。
今回の記事をきっかけに、もう一度痛みに対する認識を改めてください。ほとんどの痛みは、体にとって悪いものではなく、必要なものです。