痛み・疼痛

脳と痛み、感情の関係性:ネガティブな感情が痛みを悪化させる

整形外科を受診する患者さんのほとんどは、「体の痛み」という悩みを抱えています。そして、体を痛めて1週間程度で治る人もいますし、何年間も症状が続いて、ずっと病院に通っている人もいます。通院期間は、人それぞれであるため、怪我がどのくらいの治るかは、一概には言えないというのが現状です。
通常、痛みは組織が傷つくことによって起こります。そして、人の体には「自然治癒力」というものが備わっているため、体のどこかが傷害された場合、自然と傷を治すような反応が生じます。
そのため、怪我の後は、傷ついた組織を修復する反応に必要な、一定期間が経過すれば、ほとんどの症状はなくなるはずです。しかし、そのようにスムーズに痛みが消える人もいれば、何年間も同じ訴えで病院に通い続ける人もいます。
このような場合、その痛みに脳が関係しているケースがほとんどです。脳というと、疼痛には影響しないような印象があるかもしれません。しかし、人が感じる感覚のほとんどは、脳によって形成されます。
そして、脳では怒りや悲しみ、喜びなどの感情も作られます。そのため、痛みという感覚と、怒りや悲しみといった感情はお互いに関係し、影響しあいます。これが、疼痛が長引くことに関わっているのです。
そこで今回は、脳と痛みの関係について解説します。
 脳と痛みの関係
痛みなどの感覚は、全て脳で作られます。「何かに触れた」、「熱い」、「冷たい」といったようなものも全て、脳によって認識されることで生じるものです。また、怒りや悲しみ、喜びといった感情も脳の中で形成されます。そして、これらの感覚や感情に対して、体は何らかの反応を起こします。
例えば、物に触れたときに、その物が熱かったら、即座に「手を引く」という反応を起こします。他にも、怒りという感情は、心臓などに働きかけ、心拍数を高めたり、血圧を上げたりすることで、体を興奮させます。
この感覚と感情は、脳内では別のところで作られます。そのため、一見するとこの2つは関係ないように思われます。しかし、感覚と感情は、お互いに影響し合っていることがわかっています。
脳の研究は、「何かを行っているとき、血液が脳のどこに集まっているかを見ることで、関係する脳の場所を予測する」という方法で行われます。細胞が活動するためには、血流が必要であり、それは脳でも同じです。そのため、体の状態と関係している脳の部位には、多くの血が流れます。
そのような研究から、痛みを感じているときには、感情と関係する部分にも血流が集まり、逆に、怒りなどの感情が起こっているときには、疼痛に関与している場所の血液量も増えていることがわかりました。
言い換えると、痛みの感覚が起これば、怒りなどの感情が生じる可能性もあり、逆に、そのような感情によって、疼痛が引き起こされることもあるということです。
このように、脳内では、痛みと感情が影響し合っています。
 脳は痛みを和らげる働きを持っている
また、脳には、痛みが起こったときに、それを緩和するような働きがあります。疼痛などの感覚は、それを引き起こすような刺激が加わることで生じます。その情報が、脳の関係する部位に到達することで、そのような感覚が形成されます。
そして、 そのような情報は、脳の痛みと関係する場所以外のところにも伝えられます。その1つが、先ほど述べたような、感情を形成する部分です。
また、感情と関係するところだけでなく、疼痛を和らげる働きがある部分にも、痛み刺激の情報が届けられます
その場所は「脳幹(のうかん)」と言われます。脳幹に情報が届くと、そこから、疼痛を和らげるような物質が放出されます。そのため、症状が消失することはありませんが、与えられた刺激量と比べると程度は軽くなります。
しかし、脳幹は、悲しみや、憂うつ感などで、活動が低下することが分かっています。つまり、気持ちの落ち込みなど、ネガティブな感情があると、痛みを感じやすくなるということです。
疼痛が長期化している人は、症状によって、気分が落ち込みやすくなります。そのため、「痛みの長期化→抑うつ感→症状の慢性化」という悪循環が起こります。このような場合は、いくら痛みを引き起こしている刺激を取り除いても、ネガティブな感情も改善させないと治りません。
今回述べたように、痛みには、感情や、その人の物の考え方(価値観)が深く関係します。とくに、症状が長引いている人は、脳の影響が大きくなっている場合がほとんどです。そのため、体を痛めたときは、できるだけポジティブ思考を持つということも大切になります。