人間が地球環境下で生活していく上で、重力の影響を避けることはできません。ただ、重力による、人体に与える影響は悪いものばかりではありません。むしろ、重力があるからこそ、スムーズに動くことができますし、人体の器官の構造や機能も維持されています。
確かに、重力によって体重が体にかかるため、関節への負担も生まれます。その結果として、「変形性関節症」などの病気も発症します。理学療法士の世界では多くの運動器疾患は、重力に適応できていないために生じていると考えられています。
しかし、重力は人間にとって良い方向に利用することもできます。特に、動作を行う際には、重力の働きは必要不可欠です。
そこで今回は、重力が動作や姿勢に与える影響について述べます。
動くためには脱力が必要
重力は、人が生活をしていく上で必要不可欠なものです。特に、体を意識的にスムーズに動かすためには重力の働きがないといけませんそのため、理学療法士は、身体を専門的に学ぶために、重力による体への影響を考えます。
重力は、体の重さである体重を作ります。人の体が動くには、体の各部位の重みをうまく使う必要があります
例えば、前方に進む際は、上半身が前に傾くことが必要になります。そのことによって、体には、重力という下向きの力によって、地面に倒れようとする動きが起こります。
地面に接している足裏を中心とし、頭部から、地面へと扇状に線を引くとすると、人の体は頭部から地面に向かって回転しているように運動することになります。
その結果、頭部が地面に近づく過程で、下方向に落ちる力と前方向に進む力が生まれます。これによって、前に進むことができます。
また、このような動きは、力を使って生じるのではありません。むしろ、脱力することでこの運動を起こしやすくなります。
多くの人は、動くために筋肉の収縮が必要だと考えています。しかし、人の体は、重力を利用すれば、筋肉の収縮を使うことなく、前方向に体を動かすことができます。
人は止まっているときに、その姿勢を維持するために、持続的な筋肉の収縮が必要です。つまり、バランスが崩れるのを制御するように自然と働きます。
イメージでいうと、人の体は一本の木として、不安定に立っており、四方から紐で引っ張ることで安定させている状態です。この例えでいう紐が、人間では筋肉であります。筋肉がによって周辺を支えることで、骨格のバランスを保っています。
そして、この状態から背中側の筋肉を緩めるとします。すると、先ほどのたとえで出てきた紐をゆるめることになります。そのため、一方向に、体は傾きます。このようにして、動作は開始されます。
つまり、人の体が動き始めるのに必要なことは、筋肉を収縮させることではなく、弛緩させることです。姿勢を保つために働いている筋肉の一部を緩めることで、動作は開始されます。
また、このような動作も、重力の影響があって初めて達成されます。なぜなら、重力がないと、体が傾いても、体に重さがないからです。そのため、重力によって生まれる回転力が生まれず、推進力も起こりません。そのため、スムーズに運動するには、重力は欠かせないものだと言えます。
筋肉が硬くなるのも重力の影響
これまで述べたような、重力と身体の関係は、体の筋肉が硬くなる原因の説明にも応用できます。今回は、腰部の筋肉を例に説明します。
腰部には、前後左右の四方に筋肉が付着しています。そのことで、腰骨の安定性を保っています。これは、先ほど述べた、木を四方から紐で引っ張って立てている状態と同様です。この例で言うと、腰骨が木であり、筋肉が紐を表しています。
つまり、四方からお互いに筋肉の緊張を保つことで、一定の位置を保持しています。
例えば、人は重力の影響によって、上半身には重さがあります。この状態で、上半身が前方に傾いたとします。そのため、上半身の重みによって、体には前方への回転力が生まれます。
このような場合、人が次にとる動きとしては、「前方に進む」か、上半身の傾きを抑制することで、「姿勢を保つか」のどちらかになります。
前方へ推進する場合は、先ほど述べたように、背中側の筋肉を緩めることで、生じた回転力で前進します。
一方、姿勢を保つ場合は、逆に背中側の筋肉を緊張させることで、回転力を制御します。この緊張によって、筋肉は硬くなります。左右への体の傾きでも同様のことが言えます。上半身が右に傾いたときに、姿勢を保持するためには、腰の左側の筋肉が働かせて、傾きを抑える必要があります。
つまり、体の傾きと重力の影響によって生じる回転力に対して、姿勢を保とうとする結果、筋肉は硬くなります。
そのため、このことを考えずに、硬くなった筋肉を緩めてしまったら、姿勢を保つことができなくなります。このように、筋肉は姿勢を保つのに必要であるため、硬くなっていることが多いです。
人の体は重力によって、筋肉を緩めることで動き、硬くすることで、姿勢を保つことができます。今回述べたことは、スポーツを行う上では大切なことです。
このような重力と動作や姿勢との関係性を知ることで、筋肉の無駄なこわばりをなくすことができ、怪我の予防につなげることができます。または、今までより、少ない力でスムーズに運動動作を行なえるので、パフォーマンスの向上も期待できます。
重力は筋肉や関節と違って見えるものではないため、少し難しい話ではあります。ただ、日常生活で体に負担なく動作を行いたいと思うのであれば、一般の方にもぜひ押さえておいてほしい内容です。
この記事をきっかけに、一度、重力と動作や姿勢の関係について考えてみてください。