糖尿病において、食事療法は、治療プログラムのメインとなります。その際の前提として、「栄養素の中で血糖値を上げるのは糖質のみである」ということを、理解しておく必要があります。言い換えると、食事でのポイントは、糖質の摂取量のみということです。
あなたが食べた物は、水と消化できなかったもの、ビタミン、ミネラルを除くと、タンパク質、炭水化物(糖質)、脂肪の3つになります。これらは、体のエネルギー源の役割を果たします。
そして、食べ物のほとんどは、基本的にこの3つの栄養素を含んでいます。また、食品がたった1種類の栄養素しか含んでいないということは、めったにありません。例外として、脂肪に関しては、油やバターなどは、ほとんど脂肪のみで構成されています。
そのため、この3大栄養素と呼ばれる、タンパク質、炭水化物、脂肪が、体にどのような影響を与えるのかを知っておくことは大切です。
そこで今回は、3大栄養素の体への作用について解説します。
タンパク質
タンパク質は、「アミノ酸」と呼ばれる物質から構成されます。アミノ酸は、筋肉や神経、内臓だけではなく、ホルモンや酵素などの材料としても使われるものです。食物中のタンパク質は、消化管内の「酵素」の働きによって、アミノ酸に分解されます。
また、アミノ酸は、体のエネルギー源となる「ブドウ糖」にも変わります。しかし、この反応は、とてもゆっくりとしており、とても効率の悪いものです。
あなたが普段食べる食品の中で、タンパク質の多い食物には、炭水化物はほとんど含まれていません。例えば、卵やチーズ、肉などは、その代表例です。また、豆や種子などの植物にもタンパク質は豊富に含まれています。しかし、植物には炭水化物も含まれています。
体の血糖を作るのは、タンパク質と炭水化物です。血糖値が低くなりすぎたり、体内のアミノ酸量が多くなりすぎたりした場合、肝臓でタンパク質を材料にブドウ糖が作られます。この反応を「糖新生」といいます。糖新生には、「グルカゴン」というホルモンが関係します。
このグルカゴンは、ダイエットにも関係しています。グルカゴンの役割の1つに、体の脂肪分解を促進するというものがあります。そのため、グルカゴンの分泌が多くなると痩せます。
また、グルカゴンは、血糖値を下げる働きをもつ「インスリン」と相互に影響しています。インスリンの分泌が多くなると、グルカゴンの産生は抑制されます。そして、インスリンは、脂肪をため込む役割があり、食事で炭水化物を摂ると、血液中に多く放出されます。
つまり、炭水化物はインスリンの分泌を促進し、血糖値の上昇と、脂肪の合成を促すということです。一方、タンパク質の摂取は、グルカゴンの産生を多くし、脂肪の分解をサポートします。
糖尿病患者では、タンパク質を摂ることは腎臓への負担を高めるという理由で、摂取量が制限されます。確かに、腎臓に問題がある人は、タンパク質の過剰摂取は害になります。しかし、腎臓の働きが正常であれば、そのような心配はありません。
つまり、腎臓が正常に機能している人が、タンパク質の摂りすぎで腎臓病を発症するという心配は、必要ないということです。
脂肪
脂肪に関しては、「太りやすい」、「血液がドロドロになる」などの誤った認識がされています。そのため、その摂取量は、厳しく制限されています。このような理由で、多くの食品は「無脂肪」もしくは「低脂肪」というキーワードを売りにしています。
「脂肪は太りやすい」という認識は間違っています。脂肪はとても効率の良いエネルギーなので、効率よく燃焼されます。また、細胞やホルモンの原料ともなります。
脂肪を摂ると太るのは、一緒に炭水化物を摂取するためです。先ほど述べたように、炭水化物を食べると、インスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、脂肪の合成を促す働きがあるため、体への脂肪の蓄積を促進します。
人の体は、炭水化物から得られるブドウ糖と、脂肪からエネルギーを作り出します。
炭水化物の摂取は、血糖中のブドウ糖濃度を高くします。そうなると、主なエネルギー源がブドウ糖になり、脂肪はエネルギー産生に使われません。そして、余った脂肪は、体にため込まれるようになります。
このことからもわかるように、脂肪自体は悪くありません。脂肪が悪者になるのは、炭水化物が一緒に存在したときのみということです。
炭水化物
現代人のほとんどが、炭水化物の多い食事になっています。そもそも「主食は炭水化物」という認識が一般的であるため、多くの人が毎食、炭水化物を大量に摂取します。
炭水化物とは、糖がいくつもつながった構造をしています。あなたが食べる炭水化物の大部分は、ブドウ糖から作られています。そして、食べた炭水化物は消化管中で分解され、ブドウ糖となり、血液中に入ります。
炭水化物は、血糖値を上昇させる唯一の栄養素です。そして、血糖値が高くなると、インスリンの分泌が促されます。インスリンは脂肪の合成を促進するため、肥満を招きます。そして、肥満は、インスリンの放出をさらに多くし、体への脂肪の蓄積を増やすという悪循環を作ります。
多くの人は、「精製されたものより未精製のものの方が体に良い」と考えています。確かに、一面を見るとそうかもしれません。しかし、精製でも未精製でも、血糖値を上げることに変わりありません。
そのため、先ほど述べたような炭水化物が体に及ぼす影響は、全ての炭水化物で引き起こされます。未精製であろうと、炭水化物は食べた後、全てブドウ糖に分解されます。そして、そのブドウ糖は血液中に入ります。そのため、血糖値を上げる作用に違いはありません。
今回述べたように、3大栄養素のうち、肥満や血糖値に影響するのは、脂肪ではなく炭水化物ということです。脂肪は、炭水化物と一緒に食べて初めて、体の害になります。
健康業界では、このような認識の誤りがたくさんあります。この記事をきっかけに、3大栄養素に対しての元来のイメージを払拭してください。そうでなければ、糖尿病の予防やダイエットにも失敗することになりかねません。