糖尿病の人の場合、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」というホルモンの分泌、もしくは作用が障害されています。インスリンは、血糖値の調整を行っているため、糖尿病の人は、血糖コントロールに問題が起こります。
そのため、糖尿病の理解には、血糖値調整のメカニズムを把握することは必須です。そして、血糖値調整の仕組みを理解するためには、まず、インスリンの働きが正常な場合の血糖調整を知ることが大切です。
そこで今回は、血糖調整のメカニズムについて解説します。
空腹時の血糖調節
人間のエネルギー源は主に脂質と糖質の2つです。具体的には、脂質を構成する「脂肪酸」や「ケトン体」と、糖質である「グリコーゲン」や「ブドウ糖」です。
通常、食事後4~5時間が経過し絶食状態が続くと、食事によって得られた糖質は血中からなくなります。そのため、体は最低限の血糖値を維持しようとブドウ糖を節約します。その結果、主なエネルギー源を脂質やケトン体に変換します。
赤血球はブドウ糖しかエネルギー源にできません。この赤血球の細胞の活動を維持するために、最低限の血糖値を維持する必要があります。
赤血球以外の細胞は、脳を含めたすべての臓器において脂質やケトン体をエネルギー源として利用できます。
このような空腹時に最低限の血糖値を維持しているのは、肝臓の働きによるものです。肝臓では、アミノ酸や乳酸、脂肪の分解物である「グリセロール」を基にブドウ糖を作り出す役割があります。このことを「糖新生」といいます。
糖新生によって、赤血球に必要な血糖は維持されます。糖新生は厳密にコントロールされており、通常では最低限の血糖値から低下することはほとんどありません。
1人前の糖質量を摂取した場合の血糖調節
食ベ物の中で、血糖値を唯一上昇させるのは糖質のみです。タンパク質や脂質は血糖値を上げません。
・消化管から肝臓まで
糖質は摂取した後、消化管から吸収され肝臓に入ります。肝臓で糖質の約50パーセントが取り込まれ、残りの50パーセントは血液中に放出されて全身を巡ります。肝臓では、摂り込まれた糖がインスリンの作用によって「グリコーゲン」に変換され蓄積されます。
そのため、もしインスリンの分泌がないと、糖は肝臓で摂り込まれることなく全てが血液中に放出されます。つまり、血糖値が上昇するということです。
健常人では、血糖値上昇に伴ってインスリンが分泌されます。そのため、1人前の糖質量の食事を摂取した場合も、インスリンの作用によって糖の約50パーセントは肝臓に蓄積されます。また、インスリンは肝臓での糖新生も抑制します。
このように、体が正常であれば、インスリンの作用によって肝臓から血液中へ放出される糖の量は減ります。
食事で上昇した血糖値は、2時間程度で落ち着きます。この時期では、肝臓でのグリコーゲンの分解が行われ、血糖値の調整が行われます。この反応も2時間程度で減少し、食後約4時間経過し、空腹になる頃には、血糖コントロールは糖新生によって行われます。
糖尿病の人は、このようなインスリンの分泌・作用が低下しているために、さまざまな問題が起こります。
具体的には、肝臓でのグリコーゲンの分解と糖新生が食事中も抑制されず、常に肝臓から血液中に糖を放出します。また、血液中から肝臓への糖の取り込みも悪くなっているため、さらに血糖値は上昇します。
・肝臓から血液中への分泌後
肝臓から血液中へ糖が放出された後は、糖は筋肉細胞や脂肪細胞に取り込まれます。血中の糖の約70パーセントは筋肉細胞で利用されます。
この各細胞での取り込みを促進するのも、インスリンの作用によるものです。
そして、筋肉細胞や脂肪細胞など、各細胞で使用されず余った血糖は脂肪組織や肝臓で中性脂肪に変換されて蓄えられます。これもインスリンの働きによるものであり、このことから、インスリンは「肥満ホルモン」とも言われます。
糖尿病の人の場合、インスリンの分泌と作用の不足により、このような各細胞での糖の取り込みが低下しています。そのため、血糖値の上昇が起こり、高血糖状態が持続します。
今回述べたように、インスリンは肝臓や各細胞に作用し、血糖値の調整を行います。しかし、糖質を摂取しなければ、インスリンの過剰な分泌は必要ありません。その場合の血糖調整は肝臓の糖新生によって厳密に行われるため、赤血球に障害が出ることもありません。
このような事実を知っておくことで、食事によって起こる体の変化を理解できます。そして、その情報を実際の食事管理につなげることができるのです。