糖尿病

運動が血糖値のコントロールに有効である理由:糖尿病と運動

糖尿病の治療において、食事制限と運動療法は不可欠なものです。糖尿病の問題は、血糖値のコントロールにあります。そのため、血糖値を上昇させる食事を変えることが、糖尿病の治療に有効なのは、大半の人が理解できると思います。
しかし、運動が「具体的にどのように血糖調整に関係しているのか」は、知らない人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、運動が血糖値に及ぼす影響について解説します。
 糖尿病とインスリン
糖尿病は、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」というホルモンの分泌・作用が障害されているために起こります。インスリンには、肝臓だけでなく、筋肉細胞や脂肪細胞などでの糖の取り込みを促す役割があります。そのため、インスリンに問題が生じると血糖値が上昇します。
糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」という2つのタイプがあります。
1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓が障害されるために発症するものです。このタイプの糖尿病は、小児に起こることが多いため「小児糖尿病」とも言われます。
一方で2型糖尿病は、インスリンの分泌能力低下とインスリンの抵抗性の2つの要因によって生じるものです。インスリン抵抗性とは、その分泌量自体は問題がないものの、その作用が低下している状態です。日本における糖尿病の多くは2型糖尿病です。
このように、糖尿病には「インスリンの分泌自体が低下している」場合と、「インスリンの分泌は充分だが、その働きが低下してしまっている」という2つのケースがあります。
糖尿病のタイプによって、その原因や対処法は異なりますが、糖尿病の症状が出ることには変わりありません。また、1型糖尿病の場合は膵臓という臓器自体に問題があるため、膵臓に何らかの処置を行うことで、その機能が向上する可能性は低いです。
しかし、2型糖尿病の場合、体の構造ではなく機能に問題があるため、まだその機能が向上する可能性があります。体の機能を向上させる方法の1つが「運動」です。
 運動による血糖調整
糖は、肝臓で取り込まれた後、全身の血流に入ります。そして、必要に応じて筋肉細胞や脂肪細胞に入ります。しかし、食後でもなく安静にしているときは、血糖の筋肉細胞や脂肪細胞への移動はありません。これらの細胞へ糖を吸収させるには、インスリンの働きが必要です。
インスリンの働きによって、筋肉細胞や脂肪細胞にある「グルット4」と呼ばれるものが表面に移動します。グルット4は、血液中から細胞へ、糖を取り込むための橋渡しの役割を行います。そのため、グルット4が細胞の表面に出ることで糖が細胞内に入り込まれやすくなります。
このように、食事での糖質の摂取しインスリンが分泌されたとき、グルット4が細胞の表面に出ることで糖の取り込みが促進されます。
そして、運動もグルット4を表面に移動させる刺激になります
運動によって筋収縮が起こると、インスリンの作用がなくてもグルット4が細胞の表面に出ます。そのため、血液中からの糖の取り込みが促進されます。これは筋肉細胞だけで起こり、脂肪細胞では生じません
運動によってグルット4の移動を起こすためには、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を30分程度行うとよいと言われています。また、負荷の高い運動であれば、運動直後にこの反応は生じます。
運動により筋肉量が増えると、結果的に糖を取り込む細胞が多くなります。そのため、血糖値が下がりやすくなります。
運動による血糖下降効果は、以下のような場合には作用が低くなるとされています。
・インスリンの基礎分泌がある程度以上不足している場合
・BMI(Body mass index)が25以上
このように、運動は機能的に低下してしまったインスリンの作用を改善させる役割があります。これは、2型糖尿病に有効であるため、ほとんどが2型糖尿病である日本人にとっては効果的な治療だと言えます。糖尿病でない人も糖尿病の予防に運動は役立つため、積極的に運動を行うことを習慣化しましょう。