病気に対する考え方

障害の予防が大切な理由:「障害予防学」という考え方

障害とは、個人の精神や身体における一定の機能が恒久的に低下している状態をいいます。私は理学療法士として、身体機能が悪くなっている人と接しています。その中で、「障害の予防と治療は同じことだ」ということに気づきました。
ただ、いくつかの理由で、「起こってしまった障害を改善するよりも予防した方が良い」と感じたことから、障害予防学という考え方を提唱しています。
そこで今回は、「障害予防学の概要」について述べます。

障害予防という考え方

私の身体に対する考え方の根底には、「障害予防」という思考があります。ここでいう障害とは、簡単にいうと、関節痛や頭痛、倦怠感など、身体に起こる不調全般を指します。
そこで以下に、障害予防という私の考えについて記します。

自然治癒力という概念

人には「自然治癒力」というものが備わっています。これは特別な言葉のように聞こえるかもしれませんが、あなたが普段から経験している力です。
例えば、腕の皮膚に傷がついたとき、絆創膏などで一定期間保護すれば傷は自然と治ります。このとき、傷が治癒するために、特別な薬や治療は必要ありません。これは自然治癒力が働いているために起こる現象です。
また、骨折した後も同様です。固定して一定期間負担をかけなければ、折れた骨は自然と治癒します。
つまり、人には自ら治る力があり、その自然治癒力さえ発揮できていれば、組織が損傷しても(障害が起こっても)自然と治癒するということです。
逆に、自然治癒力を妨げる要因があれば、傷ついた組織は治癒しにくくなります。そして、自然治癒力を阻害している要因には、組織の損傷を引き起こすようなものがあります。そのため、「自然治癒力を最大限発揮できるような状態を作るということは、障害を予防することにも治療することにもなる」といえます。

自然治癒力を活かし障害を予防する

障害を予防するため、あるいは起こった障害がスムーズに治癒するためには、自然治癒力を最大限に発揮している状態を維持することが大切です。そのためには、自然治癒力を阻害している因子を除去する必要があります。
私が提唱する障害予防学は「自然治癒力を阻害する因子と、その改善方法を学び、障害の予防に役立てる学問」です。
これは、専門家ではなく一般の方にとってとても大切な学問になります。もちろん、専門家の方にも必要な考え方です。むしろ一般の方と専門家がお互いに学ぶことで、その効果は倍増します。
それは、自然治癒力には、薬や手術といったものではなく、その人自身の思考や生活習慣が大きく影響するためです。
そのため、自然治癒力を高めるためには、障害を負った人自身が努力しなければいけません。そして専門家には、そうした人々が自然治癒力を最大限発揮できるようにサポートする役割があります。
このように、私が提唱する障害予防学とは「自然治癒力を高めることで障害の発生を予防する方法を学ぶ学問」になります。

障害の予防が大切な理由

自然治癒力を高めることは、発生した障害の治癒を早めること(治療)にもなりますし、障害を予防することにもつながります。ただ、障害は起こってしまった後に治療するよりも、予防した方が良いです。
そこで以下に、障害の予防が大切な理由について記します。

障害の予防と治療は同じ

「障害の予防と治療は同じ」というと、納得できない人が多いと思います。しかし、私は今までの学びと経験から、この考えは間違いではないと言えます。なぜなら、障害が生じるには必ず原因があるからです。
例えば、高血圧という病気があります。高血圧の原因はさまざまですが、ストレスと食事の問題を指摘されるケースが多いと思います。
そして、高血圧に対するう根本的な治療はストレスの除去と食生活の改善になります。高血圧を引き起こしている原因を取り除くことで、高血圧を解消することができます。また、これが高血圧の予防にもなるのは言うまでもありません。
もちろん、ストレスを受けやすい性格や食生活が崩れやすい環境などまで考慮することが、根本的な問題を解決するためには必要です。
しかし、根本的な原因を取り除くという意味では、予防法と治療法は同じです。
当然ながら、それらに加えて薬物療法などの対処療法が必要な場合もあります。血圧が高すぎて、心筋梗塞や脳梗塞になる可能性があるケースなどはその例です。
このように緊急性が高い場合には、たとえ一時的な対処であっても、そのような処置を行わないと命に関わります。
また、ひざの痛みなどに関しても同様です。例えば、ひざの変形があり、変形が痛みの原因になっていたとします。そのとき、考えないといけないことは、ひざの変形が起こった原因です。
痛みが変形によって起こっているのであれば、関節が変形した原因を取り除けば、結果的に疼痛が落ち着くはずです。
もちろんこのときも、あまりにも痛みが強くて眠れない人などには、痛み止めは有効です。また、変形の進行が著しい場合は、手術などの処置も必要です。ただ、それでも、変形した原因を除去しないと、痛みは再発しますし、手術した後にまた変形を起こしてしまいます。
このようなことから、障害の予防と治療は同じであるといえます。一般的には、薬などが治療と考えられがちですが、根本的治療という意味では、それらは補助ということです。

障害は予防の方が簡単

予防と治療は方法が同じといっても、それでも予防する方が断然楽です。なぜなら、障害が起こっているということは、組織が損傷している場合がほとんどだからです。予防でも治療であっても、治すためには組織が傷ついた原因を考えて取り除くということには変わりありません。
しかし、損傷した組織が治るには炎症が必要で、一定の期間がかかります。また、炎症を起こした組織は、その治癒過程で通常より敏感になっている分、わずかな刺激で炎症が再燃してしまいます
例えば、通常の状態であれば、10の力で刺激を加えなければ、組織の損傷や炎症が発生しないとします。
その一方で、一度組織が損傷して炎症反応が起こっている状態では、5の力であっても、炎症が悪化することになります。つまり、炎症が生じているときは、炎症が繰り返し起こりやすくなっています。
そのため、一度損傷した組織が治癒するためには、一定期間の安静が必要ということです。しかし、個人の都合などによって、安静をとることができない人は多いです。
例えば、ひざを痛めていたとします。ひざが痛いからといって仕事が休めるわけでも、買い物などに行かなくてよいわけではありません。必ず生活をしていると、絶対の安静というものは難しいです。
そうなると、どうしても痛めた部位に刺激が加わり続けるため、炎症反応を繰り返すことになります。その結果、組織の治癒反応が進まず、痛みなどが慢性化します。
このような理由から、障害は治療より予防の方が簡単ということが言えます。
以上のように、障害は発生する前に予防することが大切です。多くの人はそのことを知ってはいますが、理解できておらず、実践もできていません。私はその大切さを広げるために、障害予防学という考え方を提唱しているのです。