日本において、貧血に悩まされている人は多いです。特に、女性には貧血もちの人がたくさんいます。そして貧血は、頭痛や腰痛などと同じように、誰でも持っているのが当たり前のような認識がされています。
ただ、貧血は頭痛やふらつき、不妊、肌荒れなど、さまざまな問題を引き起こす原因となります。しかも、貧血を抱えているにも関わらず病院に行かなかったり、病院にいっても診断されなかったりするため、何の対処もせずに放置している人が多いのです。
そのように貧血を放っておくと、最終的には原因不明の不調が出現して「不定愁訴」という扱いを受けることになります。
不定愁訴とは、明確な原因がないのに頭痛や肩こり、めまいといった不調の訴えです。不定愁訴と診断されると、病院では適切な治療を受けることができずに、長年の間、不調を抱えて生活することになります。
そうしたことを避けるためにも、あなた自身が不定愁訴の原因となりやすい貧血について理解した上で予防することが大切です。
そこで今回は、「貧血の種類と原因」について解説します。
貧血とは
貧血とは、教科書的には「体内の末梢組織に十分な酸素を運ぶだけでの赤血球量が維持できていない状態」とされています。簡単にいうと「血液の問題によって細胞に必要なだけの酸素が送られていない状態」ということです。
人間の体において、細胞が活動するためには酸素が必要になります。その酸素は、呼吸によって肺から血液中に取り込まれて、血流に乗って全身の細胞に運ばれます。
血液中で酸素を運搬する役割を担うのは赤血球です。また、赤血球を構成している「ヘモグロビン」と呼ばれるタンパク質には、鉄が結合しています。鉄は酸素と結合することができるため、この鉄部分に酸素がくっついて全身の細胞へ運ばれるのです。
そして、血液検査によってヘモグロビンの濃度が薄い状態だと、貧血と診断されることになります。
貧血の4つの種類
一言で貧血といっても、貧血は原因の違いによって4つに分類されます。具体的には「体内における鉄の需要・喪失バランスに問題が生じて起こる貧血」「造血過程が障害されて起こる貧血」「病気が原因となって起こる貧血」「出血が原因となって起こる貧血」の4つです。
例えば、女性に貧血が起こりやすい理由の一つに「生理」があります。女性は生理中の出血によって、血液と一緒に鉄分が喪失されるために、体内の鉄分量が不足してしまうのです。
これは、体内における鉄の喪失によって、鉄の需要・喪失のバランスが崩れてしまうい起こる貧血になります。
また、関節リウマチなどの膠原病や悪性腫瘍などの病気を患うと、貧血を発症しやすくなるのです。その他にも、腎臓病の人は貧血になりやすい傾向にあります。
このように、一言で貧血といっても、原因や発症のメカニズムによって貧血は4つに分類されているのです。
鉄の需給バランスが問題となる貧血
貧血は、鉄分の需給バランスが崩れることによって起こります。つまり、体への鉄分の必要性が増した場合と、体外へ必要以上に鉄分が排泄されて貧血を発症するケースです。
鉄の需要増大
鉄の需要が増大しているにも関わらず、食事からの鉄分摂取量が変わらなければ貧血となります。
例えば、女性が妊娠・出産するときなどは、胎児の成長などのために普段以上の鉄分を摂る必要があります。
具体的には、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015)」では、妊娠中・後期は、月経なしのときの鉄分の摂取量に、15ミリグラムを足した鉄分量を摂取することが推奨されているのです。
また、筋肉には鉄を保有している「ミオグロビン」が存在しています。そのため、アスリートなどの筋肉量が多い人は、一般人よりも鉄の需要が増大しているのです。つまり、アスリートも一般の基準以上に鉄分を摂らなければいけません。
このように、鉄の需要が増大しているにも関わらず、食事による鉄分摂取量を増やさなければ貧血となります。
鉄の喪失亢進
鉄の需要が増大していなくても、鉄の体外への排出が多くなると、貧血を発症することになるのです。
例えば、月経や子宮筋腫、消化管潰瘍による慢性消化管出血などでは、出血に伴って鉄が排出されるため、体内の鉄分が不足しがちになります。
具体的には、生理では1回当たり平均45ミリリットルの出血があるとされています。1ミリリットルの出血では、鉄分が約0.5ミリグラム排泄されるため、月経期間を30日だとすると、月経がある女性は1日当たり0.75ミリグラム(45ミリリットル ÷ 30日 × 0.5)の鉄分が喪失されることになるのです。
こうしたことから、月経期間中は単純計算でも、毎日0.75ミリグラムの鉄分をいつも以上に摂取する必要があるといえます。
造血過程が問題となる貧血
鉄の需要や喪失の増大といった需給バランスの崩れによる貧血は、一般的にも理解されているためイメージしやすいはずです。ただ、貧血は鉄分の需給バランスの崩れだけでなく、造血過程に問題が生じることでも起こります。
造血過程とは、白血球や赤血球といった血液成分が形成される過程のことを指します。
つまり、造血過程が妨げられると。ヘモグロビンが存在している赤血球が上手く形成されない(造血障害)ために貧血となるのです。
再生不良性貧血
例えば、再生不良性貧血は造血過程に問題が発生することで生じる貧血になります。再生不良性貧血は、赤血球や白血球、血小板のもととなる「造血幹細胞」の減少が原因で起こる貧血です。
造血幹細胞の数が少なくなった結果、赤血球が十分に作られなくなって貧血を起こします。
鉄欠乏性貧血
また、鉄欠乏性貧血も造血過程の問題で起こる貧血です。鉄欠乏性貧血の場合、造血幹細胞の数は正常ですが、その後に生じる「赤芽球」におけるヘモグロビン合成が障害されることが原因で貧血となります。
このように、造血過程が上手くいかないことでも、貧血が起こるのです。
病気が問題となる貧血
さらに、病気が原因で貧血を引き起こす場合もあります。
慢性疾患による貧血
例えば、結核などの慢性感染症や関節リウマチなどの膠原病、悪性腫瘍は貧血を招く原因となる病気として知られています。こうした病気による貧血は「慢性疾患による貧血」と呼ばれます。
これらの疾患は、体内で炎症反応を引き起こします。その炎症が赤血球への鉄の取り込みを阻害してしまうため、貧血が発症するのです。
腎性貧血
また、慢性腎不全も貧血を引き起こす病気として有名です。特に、透析をしている人はほとんどのケースで貧血に悩まされることになります。
腎臓は「エリスロポエチン」と呼ばれる、赤血球を作るために欠かせないホルモンを合成している器官です。そのため、腎臓の働きが悪くなると、エリスロポエチンの合成量が低下してしまうため、赤血球が作られにくくなります。
このように、ある病気が原因となって貧血を起こる場合もあるのです。
出血が問題となる貧血
そして、出血が原因で貧血が発症するケースもあります。
例えば、外傷などで大量に出血した場合には、出血に伴って多量の赤血球も喪失するため、貧血になる可能性が高いです。その他にも、静脈瘤の破裂も貧血を引き起こす原因となります。
また、こうした急性の出血以外にも、子宮筋腫や消化管潰瘍などの慢性的な出血でも貧血は招かれるのです。
そのため、胃潰瘍や過多月経などの人は、知らず知らずの内に貧血となっているケースもあるため注意する必要があります。
全ての貧血に共通する症状
ここまで述べたように、貧血にはさまざまな原因があります。そして、それぞれのタイプによって症状の特徴も異なっています。ただ、全ての貧血に共通して生じる症状も存在するのです。
貧血を理解するためには、まずはどのような原因の貧血でも起こる可能性が高い症状について、理解しておくことが大切になります。
酸素欠乏による症状
何が原因の貧血であっても、貧血になると各細胞に送られる酸素は不足します。その結果、酸素欠乏の症状が出現するのです。
例えば、脳細胞の酸素欠乏が起こると、頭痛やめまい、ふらつきなどの症状が起こります。また、筋肉へ十分な酸素が送られないと疲れやすくなったり、力が入りにくくなったりするのです。
このように、どのようなタイプであっても、貧血になると酸素欠乏による症状が出現します。酸素欠乏の症状としては、以下のような不調が挙げられます。
・集中力低下、情緒不安定、うつ
・頭痛、はきけ、めまい
・筋力低下
・脱力感
・倦怠感
・冷え症、代謝低下
酸素欠乏に対する代償反応
また酸素欠乏が起こると、体はそれに対して代償的な反応を起こします。酸素は体にとって非常に重要な物質であるため、どうにかして酸素不足を解消しようとするのです。
例えば、酸素不足になると、体では脳や筋肉といった末梢の組織に多くの酸素を送ろうとして心拍数が高まります。血液中の酸素が少なくなると、一回の心拍によって届られる酸素量が少ないため、心拍数を増やすことで補おうとするのです。他にも、心拍出量を増やす反応が起これば血圧が上昇します。
さらに、呼吸数を増やすことで体内に酸素を取り入れようとするのも、酸素欠乏に対する代償反応です。
こうした代償反応の結果、息切れや動悸、頻脈などの症状が出現します。
このように、酸素欠乏に対する代償反応も、全ての貧血に共通して起こる症状です。
赤血球数の減少による症状
そして、赤血球の数が少なくなることも全ての貧血に共通しています。赤血球数が減少すると、眼瞼結膜(まぶたの裏側)や爪の色が白っぽくなります。さらに、再生不良性貧血になると顔面まで蒼白してくるのです。
このように、赤血球数の減少による身体変化も、全てのタイプの貧血で起こる症状になります。
今回述べたように、一言で貧血といっても、原因によって貧血は4つのタイプに分類されます。それぞれの発症メカニズムを理解することができれば、貧血が起こる機序について深く知ることにつながります。
貧血について学ぶ際には、まずは貧血の種類と原因について把握しておくようにしましょう。