自律神経

自律神経が原因で発症する内科疾患:自律神経と病気の関係

自律神経の活動は、体内の多くの機能に影響しています。そのため、自律神経が原因で発症する病気は多く存在します。例えば、メタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧などは、自律神経のバランスが崩れることが原因で発症する病気です。
このように、自律神経はさまざまな病気の発症に関係しています。こうしたことから、体の健康を維持するためには、自律神経と病気の関係性を理解しておくことが大切です。
そこで今回は、「自律神経が原因で発症する内科疾患」について解説します。
ここでは、内科疾患の中でも、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、脂肪肝、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群と自律神経の関係性について説明していきます。

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームは、自律神経のバランスが大きく影響する病気の一つです。以下に、メタボリックシンドロームと自律神経の関係について記します。

メタボリックシンドロームとは

メタボリックシンドロームは、通称「内臓脂肪型症候群」と呼ばれます。
身体に蓄えられる脂肪は、大きく内臓脂肪と皮下脂肪に分けられます。そして、内臓脂肪型肥満は男性に多く、お腹の周りに脂肪がたまります。一方、皮下脂肪型肥満は女性によく見られるもので、大腿部や臀部に脂肪がつきやすいタイプです。
内臓脂肪には、内臓を正常な位置に保ったり、外部の衝撃から保護したりする役割があります。
また内臓脂肪は、飢餓時などの緊急事態のエネルギー源にもなります。かつては、狩りのように長期間食べ物を食べることができないような状況の時に、内臓脂肪がエネルギー源として利用されていました。
このような理由から、男性にとって内臓脂肪は生きるために必要な脂肪だといえます。ただ、内臓脂肪は増えすぎると体に悪影響を及ぼします。
そもそも、現代社会で通常の生活をしていれば、内臓脂肪をエネルギー源として頼らなければいけないような緊急事態になることはほとんどありません。そのため現代社会を生きる人々には、知らないうちに内臓脂肪が貯まりすぎる傾向があります。
蓄積された内臓脂肪からは、高血圧や糖尿病、高脂血症、心筋梗塞を誘発するような「アディポサイトカイン」という物質の分泌が盛んに分泌されるようになります
アディポサイトカインとは、本来であれば脂質や糖質の代謝をスムーズにする役割を持つ物質です。
ただ、アディポサイトカインには、体に対して良い働きをする善玉アディポサイトカインと、逆に体に悪影響を与える悪玉アディポサイトカインがあり、これら2つがバランス良く分泌されて、はじめて代謝を円滑にする作用を発揮します。
例えば、善玉アディポサイトカインとしては「アディポネクチン」や「レプチン」と呼ばれる物質が挙げられます。
善玉アディポネクチンは、糖尿病の原因となる「インスリン抵抗性(ホルモンの働きが悪くなった状態)」を改善したり、動脈硬化を予防したりする作用を持っています。つまり、善玉アディポサイトカインは、体の健康にとって欠かせない物質です。
一方で、悪玉アディポネクチンとしては「TNF-α」や「遊離脂肪酸」「インターロイキン6」などが例として挙げられます。
そして、悪玉アディポサイトカインには、血栓を作りやすくしたり動脈硬化を促したりする作用があります。また、悪玉アディポサイトカインは、インスリン抵抗性を起こしたり血圧を上げたりするような働きをします。
内臓脂肪が蓄積すると、悪玉アディポサイトカインの分泌が促されて、善玉と悪玉のバランスが崩れてしまいます。その結果、代謝異常を引き起こし、さまざまな病気につながるということです。

メタボリックシンドロームを検査する方法

通常メタボリックシンドロームは、「メタボ検診」と呼ばれる、40~74歳の医療保険加入者を対象に行われる検診によって診断されます。
メタボ検診で検査される項目は以下の4つであり、腹囲に加えて、血糖値、脂質、血圧の3項目のうち、2つ以上に当てはまるとメタボリックシンドロームと診断されます。そして、メタボと診断された場合には、食事と運動の指導が行われます。
メタボリックシンドロームの診断における、それぞれの基準値は以下のようになります。
1.腹囲
男性85センチ、女性90センチ以上、もしくは、BMI(Body mass index)が25以上
*BMIとは、身長と体重の割合を示す数値であり、「身長(m)×身長(m)÷体重(kg)」で計算されます。
2.血糖値
空腹時血糖値100mg/dl以上、もしくはHbA1cが5.2パーセント以上
3.脂質
中性脂肪150mg/dl以上、もしくはHDLコレステロール値が40mg/dl以下
4。血圧
収縮期血圧が130mmHg以上、もしくは拡張期血圧が85mmHg以上
こうしたメタボリックシンドロームの基準には、多くの検討すべきことがあるため、日々見直されているような状態です。しかし、基本的には以上に記した値が世界共通となっています。

メタボリックシンドロームの原因

メタボリックシンドロームの原因は生活習慣にあるとされています。そして、その中でも、特に肥満と関係しやすい食生活の影響がよく指摘されています。
確かに、食べ過ぎや食べ物の偏りによって、内臓脂肪は蓄積されます。しかし、ここで考えないといけないことは、「なぜ食べ過ぎてしまうのか?」ということです。メタボリックシンドロームになる人とそうでない人の違いは、ここにあります。
そして、こうした過食は「自律神経」の活動異常によって引き起こされます。
自律神経とは、胃腸や心臓、血管などを無意識下でコントロールする神経です。例えば、意識がない就寝時にも心臓が動いているのは、自律神経が心臓の活動を調整しているためです。
他にも、運動すると無意識に心拍数が上がるのも、自律神経によって心臓が刺激されるためです。
自律神経には、ストレスが強くなった時に働く「交感神経」と、リラックス時に働く「副交感神経」の2つがあります。これら2つの神経がバランスを保つことで、体の健康は維持されています。
しかし、日常生活において、精神的ストレスなどの体を緊張させるような刺激が多くなると、交感神経の緊張が高くなるため、自律神経の均衡が崩れます。
そして、交感神経の活動が強くなりすぎると、体内の血圧や血糖値などが高くなるといった変化が起こります。ただ、こうした状態は、体にとって危険な状況であるため、体は副交感神経を刺激して、血圧や血糖値を下げようとします。そのときに生じるのが、過食です。
胃腸の働きは、副交感神経によって支配されています。そのため、食べることで胃腸を刺激すると、副交感神経の活動を活発することになります。その結果、交感神経の緊張が抑えられて、体の緊張が和らぐことにつながります。
こうした自律神経の活動を乱すストレスは、誰でも抱えているものです。そして、ストレスも、適度な範囲内であると体にとって良い刺激となります。
しかし、ストレスが過度になると、自律神経のバランスを崩すきっかけとなります。
つまり、メタボリックシンドロームは「ストレスから生じる交感神経の過剰な緊張状態から体を守るために、過食という防衛反応が起こった結果として生じたもの」といえます。
このことから、メタボリックシンドロームの根本的な原因は、ストレスだといえます。

糖尿病

メタボリックシンドロームの原因ともなる糖尿病も、自律神経の乱れが原因となって発症する病気の一つです。
以下に、糖尿病と自律神経の関係性について記します。

糖尿病で問題となる高血糖

糖尿病とは、血液中の糖分量が過剰になっている状態(高血糖)をいいます。そして糖尿病になると、腎臓病や神経症(足の痺れなどが生じる病気)、網膜症(目の病気)などを発症(合併)しやすくなります。
こうした、糖尿病で引き起こされる問題(合併症)の多くは、高血糖が原因で起こります。高血糖状態は、血管を硬くして動脈硬化を引き起こします。
例えば、動脈硬化が大きな血管に起こると、脳卒中や心筋梗塞につながります。また、小さい血管に動脈硬化が生じると、腎臓や神経の働きが悪くなったり、目が見えなくなったりして、腎臓病や神経症、網膜症を発症します。
つまり、糖尿病の問題は、血糖値のコントロール障害にあります。そして、こうした血糖値の異常は、「インスリン」というホルモンの分泌や作用が阻害されることで起こります。
インスリンとは、すい臓から分泌されるホルモンであり、血糖値を下げる作用があります。そのため、インスリンの分泌量が少なくなったり働きが悪くなったりすると、血糖値が高くなります。その結果、糖尿病を発症します。
また、こうしたインスリンの作用低下による血糖値コントロール異常を引き起こす病態は、主に2つあります。
それは、「インスリンの分泌自体が障害されている場合」と「インスリンの分泌量は十分であるけれども、インスリンが上手く作用していないケース」の2つです。どちらの問題でも、血糖コントロールは障害されます。
そして、血糖値のコントロールには自律神経が深く関係しています

血糖値と自律神経の関係性

既に述べたように、自律神経とは、意識することなく心臓や消化管などの内臓の働きや血管の運動を調整する神経です。さらに、自律神経は人が生きるためには不可欠なものであり、自律神経がないと生命を維持することが難しくなります。
また、自律神経は交感神経と副交感神経の2つに分類されます。交感神経は、運動時や緊張時に活発に働く神経であり、体を興奮させます。
それに対して副交感神経は、食事の時や就寝時に活動が高まる神経であり、体をリラックスさせます。また、副交感神経の働きによって、唾液や涙、ホルモンなどの分泌物の分泌を促進させます
これら2つの神経がお互いにバランスを取ることで、体のさまざまな機能が調整されています。
例えばストレスが強くなると、交感神経の働きが高まります。そして、このとき、血圧を上げたり心拍数を高めたりするような作用をもつ「アドレナリン」「ノルアドレナリン」といったホルモンが分泌されます。
これらのホルモンは、肝臓に蓄積されている糖を血液中に放出させる作用があります。つまり、血糖値を上昇させる働きがあるのです。
また、交感神経の作用が強くなると、副交感神経の働きは抑制されます。既に述べたように、副交感神経にはホルモン分泌を促す役割があります。これはインスリンも同様であり、副交感神経の活動が低下すると、インスリンの分泌は悪くなります。
インスリンには、血糖値を下げる働きがあるため、結果的に血糖値を上昇させます。
さらに、交感神経の過剰な緊張は「活性酸素」の産生を増やします。活性酸素は、体の正常な細胞に作用し、組織を破壊します。そのため、膵臓(すいぞう)に活性酸素が大量に発生すると、膵臓によるインスリンの合成・分泌が悪くなり、血糖値を上昇させます。
ちなみに、活性酸素には動脈を傷つける作用があります。そして、糖尿病の合併症を引き起こす原因となる動脈硬化は、血管が損傷されることで起こります。
つまり、交感神経の緊張は血糖値を高めるだけでなく、糖尿病の合併症を発症させたり悪化させたりすることにもつながります。
以下に、自律神経と血糖値上昇の関係性についてまとめます。
・アドレナリン、ノルアドレナリンの分泌による血糖値上昇
・副交感神経の作用低下に伴うインスリンの分泌低下による血糖値上昇
・膵臓組織の破壊に伴うインスリン分泌低下による血糖値上昇

高血圧

高血圧も自律神経の活動が乱れることで発症する病気の一つです。以下に、高血圧と自律神経の関係について記します。

血圧の性質

血圧とは、心臓から送られた血液によって生じる「血管の内壁を内側から押す力」のことをいいます。心臓は縮んだり(収縮)伸びたり(拡張)を繰り返すことで、血液を全身へ送り出しています。そして、心臓が収縮したときの血圧を「収縮期(最高)血圧」、拡張したときの血圧を「拡張期(最低)血圧」といいます。
一般的に、血圧は安静状態で測定し、最高血圧が140mmHg以上、最低血圧が90mmHg以上で高血圧と診断されます。
この基準には、多くの検討すべきことがあるため、日々見直されているような状態です。しかし、基本的にはこの値が世界共通となっています。
高血圧の基準に関する検討項目の1つに、日内変動があります。血圧には1日の時間帯によって、変動する性質があります。例えば、日中や活動時に高く、夕方から明け方と休息時に低くなります。そのため、血圧を測定した時間によって、その値は大きく変わるということです。
また、体の緊張具合によって、血圧は簡単に2~30mmHg上がります。
特に、病院で血圧測定が実施された場合には、こうした緊張による一時的な血圧の上昇が起こること起こりやすくなります。
こうしたことから、血圧を測定する際は、時間や環境を一定して測ることが大切だといえます。
そしてその中で、1日の変動を確認して、日内変動を把握することができれば、毎回の測定結果に一喜一憂することはなくなります。
このように、「血圧は変動するのが当たり前」という認識を持つ必要があります。

高血圧と自律神経の関係性

高血圧には、腎臓病や、ホルモンが関係する内分泌系の異常などによって起こる「二次性高血圧症」と、原因がはっきりしない「本態性高血圧症」の2つがあります。そして、日本人における高血圧の9割以上は本態性高血圧だといわれています。
本態性高血圧症は、二次性高血圧症と違い、高血圧を引き起こすような疾患がないため、原因不明とされています。
ただ、原因不明とされている本態性高血圧症のほとんどは、自律神経の乱れによって起こります。そして、自律神経の不調はストレスが原因で生じます。つまり、本態性高血圧症の根本的な問題は、ストレスにあるということです。
自律神経の中でも、交感神経には心臓の働きを強くしたり血管を収縮させたりする作用があります。そのため、交感神経が活動すると血圧は上昇することになります。
それに対して副交感神経には、血圧を下げるような働きがあります
つまり、交感神経の活動が過剰になると、高血圧を引き起こすきっかけになるということです。そして、交感神経の緊張の多くはストレスによって生じます
こうしたストレスが原因で起こる血圧の上昇は、ストレスに対する体の防衛反応といえます。
例えば、森で熊と遭遇した時には、急いで逃げなければなりません。そして、逃げるためには、筋肉が通常以上に働く必要があるので、筋肉には多くの血液がいります。そのため、血液を全身に送り出す心臓の働きが活発にならなければいけません。
心臓が強く作用して筋肉に大量の血液が送り出された結果、筋肉を使って熊から逃げることができます。
つまり、血圧の上昇は、体を守るために必要な反応だといえます。これは、精神的なストレスで生じる血圧の上昇も同様です。そして、こうした一時的な血圧上昇は、生理的な反応であり、特に問題とはなりません。
ただ、血圧が高い状態が長期間持続すると、血圧が下がらなくなり、最終的に高血圧症となってしまいます。
このように、自律神経のバランスが慢性的に崩れることで、本態性高血圧症は発症します。

脂肪肝

脂肪肝も自律神経のバランスが崩れて発症する病気の一つです。以下に、脂肪肝と自律神経の関係性について記します。

脂肪肝とは

脂肪肝とは、その名の通り「肝臓に脂肪が過剰に溜まった状態」をいいます。一般的に、肝臓内の中性脂肪が全体の5パーセントを超えると、脂肪肝と診断されます。
通常、食事で取り入れたタンパク質や糖質、脂質といった栄養素は、腸で吸収された後、肝臓に送られます。そして、肝臓に送られた糖質と脂質は、一部が中性脂肪に変わり肝臓の中に蓄えられます。肝臓に蓄積されなかったものが、血液によって全身に送られます。
このときに、肝臓に蓄えられた脂肪が過剰になってしまうと、脂肪肝になります。
一般的に、脂肪肝の原因はアルコールの過剰摂取や、脂質多過の食事といった食生活の偏りだと考えられています。
肝臓に脂肪が溜まっても、すぐに命に危険が及ぶこともありません。しかし、肝臓には、体に害があるものの解毒を行ったり、全身の筋肉や神経といった組織に栄養を送ったりする役割があります。
そのため、脂肪肝を放置して肝臓が働きにくくなると、体内に毒素が溜まったり、疲れやすくなったりします。
つまり、健康的に生活するためには、脂肪肝を予防・改善する必要があります。

脂肪肝は体の適応反応

ここで、肝臓の成り立ちと、内臓脂肪の役割を考えることで、脂肪肝の理解が深まります。
もともと、肝臓は腸から派生した臓器です。腸が膨らんで、脂肪を蓄えたり、「胆汁」と呼ばれる分泌物を作ったりする役割をもつようになり、肝臓という1つの臓器ができました。そして、肝臓に蓄積された脂肪は、肝臓が働くためのエネルギー源として利用されていました。
このように、肝臓に脂肪を蓄積し始めたのは、甲殻類や爬虫類といった「変温動物」です。
変温動物とは「外界の環境によって体温が変化する動物」のことを言います。それに対して、人間は「恒温動物」といい、気温が変化しても温度に影響されることなく、ある程度までは体温を一定に保ちます。
変温動物は、環境温度に合わせて体の温度が変化するため、体温を維持するための皮下脂肪が必要ありません。
それが恒温動物になると、気温が変化したときに体温を保つための構造が必要となりました。そこで、肝臓に蓄積していた脂肪を皮下と内臓に移すことで、脂肪を保温に利用しました。
ただ、体温を維持する役割があるのは、内臓脂肪ではなく皮下脂肪です。
内臓脂肪の役割は、体温の保持ではなく、内臓の位置を維持することと内臓を外部からの衝撃から守ることです。またそれだけでなく、体を動かすためのエネルギー源になりやすいのも内臓脂肪です。
おなか周りに蓄えられた内臓脂肪は、食事によるエネルギー供給が十分でない場合に、優先的に分解されてエネルギー源となります。
体にストレスがかかると、それに対応するために、さまざまな臓器の活動が高まります。そうなると、エネルギーがたくさん必要になるため、分解された内臓脂肪がエネルギーを作り出す役割を持つ肝臓に集まるようになります。
つまり、肝臓に脂肪がたまるのは「ストレスに対応するために必要なエネルギーを作り出す体の適応反応」と考えることができます。
こうしたストレスに対する体の反応は、基本的に自律神経が調整しています。自律神経の働きが正常であれば、ある程度のストレスは大きな問題を起こすことなく処理されます。その一方で、自律神経のバランスが悪い状態だと、ちょっとしたストレスでも体は戦闘体勢を取ることになるため、必要なエネルギー量が高くなります。
その結果、肝臓に集まる脂肪量も多くなり、肝臓に脂肪が蓄積されることになります。そして、自律神経を乱し、脂肪肝になる原因には以下のようなストレスが挙げられます。
・長時間労働
・精神的ストレス
・断食
・肥満
・過剰な薬
・アルコール

胃潰瘍

胃潰瘍は、一般的にも自律神経との関係性が深い疾患として認識されています。以下に、胃潰瘍と自律神経の関係について記します。

胃潰瘍とは

胃潰瘍とは、胃の内面である「胃壁」が傷つく病気です。胃の中では、強い酸性である胃液が分泌されています。そのため、体には、胃の壁にあたる「粘膜(ねんまく)」によって、胃酸で胃壁に穴が開くことを防ぐような仕組みが備わっています。
胃の内面は、粘膜自身から分泌される「粘液」によって表面が保護されています。これは、車などで行われる、物体の表面を覆う「コーティーング」をイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。
こうした粘液によって、胃液や食べ物などで、胃壁が傷つけられるのを防ぎます。
つまり、胃液は胃の内壁を壊す破壊因子であり、粘液は胃壁を守る防御因子だといえます。胃潰瘍は、こうした破壊因子と防御因子のバランスが崩れることによって起こる病気になります。
そのため、胃の内部に破壊因子が増えるか、防御因子が低下すると胃潰瘍を発症します。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、この破壊因子の1つであるため、ヘリコバクター・ピロリ菌は胃潰瘍の原因になります。
また、痛み止めや解熱鎮痛剤などの「非ステロイド性抗炎症薬」と呼ばれる薬は、胃の血流を悪くします。その結果として、胃内の防御因子である粘液の分泌が低下するため、胃潰瘍を生じやすくします。
このように、胃潰瘍は胃壁の破壊因子と防御因子のバランスが崩れることで発症します。

胃潰瘍の本当の原因とは

一般的には、胃潰瘍の原因の多くはヘリコバクター・ピロリ菌にあるとされています。しかし、体内において、ヘリコバクター・ピロリ菌は特別な菌ではないことがわかります。実際に、60歳以上の人では、8割以上の人が胃の中に存在するという常在菌です。
もし、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃潰瘍の原因であるならば、60歳以上の8割を超える人達が胃潰瘍になっているはずです。しかし、そうではありません。
それでは、胃潰瘍の本当の原因とは何でしょうか。それは、自律神経の不調にあります。
ヘリコバクター・ピロリ菌が、胃壁を傷つける要因であることは間違いありません。しかし、体の働きが正常であれば、胃壁は粘液によって保護されているため、ヘリコバクター・ピロリ菌によって損傷されることはありません
しかし、粘液の分泌が少なくなると、胃壁の防御因子が弱くなってしまいます。すると、相対的にヘリコバクター・ピロリ菌などの破壊因子の作用が強くなります。その結果、胃潰瘍が起こります。
そして、既に述べたように、粘液の分泌は自律神経の中でも「副交感神経」によって促進されます
副交感神経は、リラックスしているときに活発に働き、外界のストレスなどが強くなります。ただ、体が緊張した時には、副交感神経の活動が抑制されます。つまり、強いストレスにさらされると、副交感神経が働きにくくなり、その結果として粘液の分泌が少なくなります。
また、粘液の分泌が少なくなると胃の中の酸性度は低くなります。胃内の酸性環境が維持されない状態では、ヘリコバクター・ピロリ菌は増殖してしまいます。
その結果、防御因子が弱くなる上に破壊因子が強くなるため、胃潰瘍を発症しやすくなります。
さらに、ヘリコバクター・ピロリ菌が増殖すると、「活性酸素」が増えます。活性酸素には、「組織を破壊する」という作用があるため、結果的に胃壁は傷つけられます。
このことから、胃潰瘍になる原因は、生活で起こるストレスによる自律神経の乱れにあると言えます。自律神経のバランスが整って粘液分泌が正常に行われていれば、ヘリコバクター・ピロリ菌によって胃潰瘍が生じることはほとんどありません。
このように、胃潰瘍の根本的な原因は、ストレスなどによる自律神経の崩れにあります。そのため、胃潰瘍の予防と改善には、ヘリコバクター・ピロリ菌の除去だけでなく、自律神経の働きを整えることが必要不可欠といえます。

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎も、自律神経の乱れが原因となって発症する病気です。以下に、潰瘍性大腸炎と自律神経の関係性について記します。

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に炎症が生じて、「ただれ」や潰瘍ができる病気です。そのため、下痢や血便、腹痛、微熱などの症状が現れ、ひどくなると下血します。さらに状態が悪くなると、1日20回以上もトイレに行く場合もあり、学校の授業や仕事に支障をきたします。
また、症状が重度の場合は、体重減少や貧血などの症状も出現します。
その他にも、皮膚の変化や目の障害、関節痛なども認められます。そして、潰瘍性大腸炎は大腸がんとの関連まで指摘されています
このような潰瘍性大腸炎ですが、その原因はわかっていません。
仮説としては、腸内細菌の影響や免疫の異常、食生活の変化などが挙げられていますが、はっきりしていません。そのため、潰瘍性大腸炎の主な治療法は、「大腸に起こっている炎症を抑制する消炎鎮痛剤の処方」となっています。
しかし、そのような対処法では、潰瘍性大腸炎は治りません。
表面上に出ている炎症を抑える治療は、一時的には症状は和らげます。ただ、潰瘍性大腸炎の根本的な原因を取り除いているわけではないため、すぐに再発します。

炎症と自律神経

潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が生じた結果起こる病気です。そして、炎症の発症には自律神経が深く関係しています
自律神経とは、内臓や血管を無意識下でコントロールする神経です。自律神経は、興奮時に働く「交感神経」と、リラックス時に活動する「副交感神経」に分類されます。この2つがバランスをとることで、さまざまな臓器の働きを調整しています。
また、自律神経は、体の免疫とも関係しています。免疫とは、体の外部から侵入した異物を除去する反応です。この免疫反応には、主に「白血球」の働きが重要になります。
白血球は、大きく分けて「顆粒球(かりゅうきゅう)」と「リンパ球」に分類され、それぞれ得意とする異物の除去を行います。そして、交感神経が優位な場合は、顆粒球が増加し、副交感神経が活発だと、リンパ球の数が増えます。
この交感神経の緊張で増加する顆粒球が、炎症を引き起こす原因になります
顆粒球には、活性酸素を放出する特徴があります。活性酸素は、正常な組織や細胞を傷つけます。炎症とは、損傷された細胞が治る過程で生じる反応です。つまり、交感神経の緊張によって顆粒球が増加し、活性酸素が大量に産生されると、その場所で炎症が生じるのです。

潰瘍性大腸炎と自律神経の関係性

既に述べたように、潰瘍性大腸炎は、大腸が慢性的に炎症を起こしてしまう病気です。そのことによって、さまざまな症状が現れます。
また、炎症は交感神経の働きによって、顆粒球が増加すると起こります。つまり、潰瘍性大腸炎の原因は、「交感神経の過活動によって生じた、活性酸素による組織損傷」だということです。
交感神経は、ストレスによって過度に緊張します。そして、潰瘍性大腸炎を患っている人には、ストレスを受けやすい性格の人が多いです。潰瘍性大腸炎は、もともとそのような性格の人に、部活の大会や受験、就職などのプレッシャーがかかることで発症します。
潰瘍性大腸炎を患っている人には、ほとんどといっていいほど、このようなエピソードがあります。
そのため、医療従事者は、このエピソードを問診でしっかり聞いておく必要があります。そこに、その人が潰瘍性大腸炎を発症した原因が隠れているはずです。そして、その原因を取り除いて自律神経のバランスを整えることが、根本的に潰瘍性大腸炎を解消することになります。

過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群の発症にも自律神経が深く関係しています。以下に、過敏性腸症候群と自律神経の関係性について記します。

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は、大学受験を控えている高校生や、就職したての若い人に発症しやすい病気です。そして、過敏性腸症候群の原因は、受験や職場での人間関係といったストレスにあるとされています。
過敏性腸症候群の特徴的な現象として、「腸自体には炎症や損傷などの異常が認められない」ということが挙げられます。それにも関わらず、腹痛や便秘、下痢といったような「腸の不調」を表わす症状が出現します。
また、便秘と下痢といったように、対照的な症状を繰り返すことも、過敏性腸症候群の特徴の一つです。
このように、腸などの臓器の構造には異常がないのに、さまざまな不調が出現する病気を「機能性疾患」といいます。機能とは、その器官の働きのことを指します。
つまり、機能性疾患とは「画像や血液検査などの見た目には問題がないけれど、実際には器官が上手く働いていないために問題が生じてしまう病気」ということです。そのため、基本的に機能性疾患は原因が特定されることはありません。
こうしたことから、機能性疾患に対しては、表面的に現れている症状を抑えるような薬を飲むことで、一時的に苦痛を緩和するといったことが主な治療となっています。
ただ、根本的に状態を改善するためには、臓器の機能を妨げている原因を考える必要があります。そこで、過敏性腸症候群を根本的に解消するためには「なぜ腸の働きが悪くなっているのか?」を考えなければなりません。
そして、腸の機能を調整しているのは自律神経です。自律神経の作用によって、腸の動きは促進されたり抑制したりします。そのため、自律神経が不調になると、腸の働きも悪くなります。
以上のことから、過敏性腸症候群の原因は、自律神経の働きを考えることでよく理解できるようになります。

ストレスと自律神経、腸の関係性

自律神経は、ストレスが強くなると働く交感神経と、リラックスしているときに活発になる副交感神経の2つに分けられます。
そして、腸の動きは副交感神経が作用することで活発になります。また、交感神経と副交感神経は、お互いに拮抗関係にあるため、一方の活動が強くなると、もう一方は働きが抑制されるといった具合で調整されます。
そのため、受験や職場でのストレスによって、交感神経の緊張が強くなります。すると、拮抗関係にある副交感神経の働きが弱くなるため、腸の運動も起こりにくくなります。これは、便秘という形で現れます。
また、人間の体は自律神経のバランスが崩れると、そのバランスを取り戻そうとする反応を起こします
つまり、交感神経の緊張が強い状態が続くと、それを避けようとして副交感神経を無理やり活性化させます。これが、腸の過剰な運動につながり、便秘の後に腹痛や下痢という症状が出現します。
こうした体の反応は、ストレスが一過性であれば、自律神経が調整するため、自然と治ります。しかし、持続的にストレスが加わってしまうと、自律神経の乱れも継続し、便秘や下痢といった対照的な症状を繰り返すようになります。
今回述べたように、自律神経の乱れはさまざまな内科疾患の発症に関係しています。
こうしたことから、体の健康を維持するためには、自律神経を整えるような生活を送ることが欠かせないといえます。