糖尿病の人にとって、血糖値を安定させることは大切です。糖尿病の問題の多くは、血糖値の変化によって血管が硬くなることで起こります。血糖値の変動が大きいと、血管は傷つきます。その傷を治す過程で、血管の壁は厚くなり、いわゆる「動脈硬化」の状態になります。
糖尿病で問題となる合併症のほとんどは、この動脈硬化によって起こります。動脈硬化が大きな血管に起こると、脳卒中や心筋梗塞を引き起こします。また、小さい血管に生じると、神経や目、腎臓が悪くなります。
糖尿病になった後はもちろんのこと、糖尿病の予防にも血糖値のコントロールはとても重要です。そのため、血糖値に影響を及ぼす要因を理解しておくことが大切です。
血糖値には、さまざまな因子が関係します。食事はもちろんのこと、睡眠不足やストレスなどの影響もあります。
そこで今回は、ストレスと血糖値の関係性について解説します。
ストレスとは
ストレスには、持続的に長期間かかるストレスと、短時間で急激にかかるストレスの2種類があります。この2つのストレスに対する体の反応は異なります。
そもそもストレスとは、ある刺激に対する体の反応のことをいいます。そして、この刺激のことを「ストレッサー」といいます。つまり、一般的にストレスと言われているものは、正確にはストレッサーということです。
ストレッサーには、いろいろなものが含まれています。精神的なもの、食事によるもの、温度などの環境変化によるもの、打撲などの外傷によるものなど、全てがストレッサーです。その中でも、今回は、精神的なストレッサーに対するストレス反応の影響について述べます。
ストレス反応は、体にとって必要なものです。一般的に、ストレスというと悪いもののように捉えられていますが、そうではありません。ストレス反応は、外部環境の変化に対応するための体の適応反応です。
例えば、激しい運動を行うと、心拍数は上昇します。運動を行うには、全身の細胞に通常以上の酸素が必要になります。そのため、細胞に酸素を送る役割をもつ、血液を増やさなければなりません。そのための反応として、心拍数の増加が起こります。
このようにストレス反応とは、人間が生きていく上で必要なものです。まずは、そのことを十分に理解しておいてください。
慢性的なストレス反応の血糖値への影響
ストレス反応の中でも、慢性的なものは、健康に大きな影響を及ぼします。先ほど述べたように、ストレス反応は、外部環境に適応するために生じるものです。しかし、これがあまりに長引くと、その反応すら起こらなくなります。つまり、体が疲れ果ててしまうということです。
その結果起こるのが「うつ状態」です。うつ状態は、簡単に言うと、外部環境の変化に体がついていけなくなった状態です。ストレス反応が慢性化すると、このような状態になります。
しかし、慢性的なストレス反応は、「血糖値に直接影響することはない」ことがわかっています。
慢性的なストレス反応で問題になることは、それによって起こる過食などの食生活の不摂生です。食生活の変化によって、血糖値が上昇する可能性はあります。そのため、慢性的なストレス反応で気をつけることは、それによって起こる二次的なもののみです。
急激なストレス反応の血糖値への影響
短時間に強いストレッサーが体に作用すると、血糖値は上昇します。
例えば、そのようなものには、交通事故や大勢の前での演説、重要な試験などが挙げられます。このような状況では、血糖値は急激に上昇します。
これは、「アドレナリン」というホルモンの影響です。先ほど述べたように、外部環境が変化すると、体はその変化に適応するように反応します。その適応的な変化を引き起こすのがアドレナリンになります。
アドレナリンは、肝臓に作用し、ブドウ糖の産生を促します。そして、結果的に血糖値を上昇させます。
これも体の適応反応です。アドレナリンが分泌されるような状況とは、緊急に体を動かさなければいけないような場合がほとんどです。例えば、森で熊に遭遇したときなどです。
このようなとき、のんきにゆっくり歩いて逃げていては、熊に襲われます。そのため、通常以上に筋肉を使って、急いで逃げなければなりません。筋肉が働くためには、エネルギーが必要です。エネルギーを作り出すためには、ブドウ糖という材料がいります。
そのため、アドレナリンによって、ブドウ糖の産生を促します。また、そのブドウ糖を筋肉に届けるために心臓が活発に働き、心拍数を上げます。
このように、急激なストレス反応では、血糖値の上昇が必然的に起こります。
しかし、この反応が慢性的に続くことはほとんどありません。そのため、長期間にわたって血糖値の上昇が認められる場合は、精神的な問題以外の影響を考える必要があります。
今回述べたように、ストレスは血糖値に影響を及ぼしますが、それは一時的なものです。また、慢性的なストレス反応によって、長期間にわたって血糖値を上昇させる可能性はあります。しかし、それはストレス自体によるものではなく、ストレスによって起こる二次的なものです。
つまり、血糖値を上げないために大切なことは、ストレスを無くすことではなく、ストレスに対する行動をコントロールすることだということです。