身体を動かしたり、姿勢を維持したりするときには、骨格筋の収縮と弛緩が絶え間なく行われています。特にスポーツにおいては、筋肉の収縮と弛緩が効率よく行われることで、パフォーマンスが良くなります。
特に収縮は「反射」の力を利用することができるため、無駄なくスムーズに体を動かすことに関わっています。自分の身体を効率よく使うためには、反射の仕組みを理解する必要があります。
筋肉の反射が起こる理論を学ぶだけで、スポーツの実力が飛躍的に向上するようになります。
伸張反射
伸張反射(SCC;Stretch Shortning Cycle)とは、骨格筋(筋肉)が急に伸ばされたときに、収縮する仕組みです。ゴムを伸ばしすぎると弾力がなくなったり切れてしまったりするのと同じように、急激に筋肉が伸ばされすぎると障害されます。これを防ぐために、伸ばされたときは収縮するように反応します。
これは脳を介さず、脊髄と骨格筋の間で行われる「反射」の一つです。通常は脳の命令によって体が動かされます。ただ、反射は脳とは無関係に起こります。
そして、伸張反射は日常的な動作や姿勢の維持、スポーツで力を発揮する時など、さまざまなところで発揮されています。
特に姿勢を維持する筋肉(抗重力筋)においてこの働きは顕著であり、私達が電車で揺られた状態で立っていられるのも、座りながら眠ることができるのもこの働きによるものです。
筋肉を伸ばすと、筋肉の中にある「筋紡錘」が刺激を感知して、筋肉を反射的に収縮させる反応が起きます。
例えばその場でジャンプする動きでは、一度膝を曲げてから地面を押して飛び上がります。
それは、膝を曲げることで下半身の筋肉が引き伸ばされ(大腿四頭筋、下腿三頭筋など)、その瞬間に縮もうとする力が貯まることで高く飛び上がることができるためです。
この働きは、通常の収縮に比べてエネルギー消費量が少ないため、スポーツのように身体を素早く動かす場面で特に有効です。
走る動作であれば、足の裏(つま先)が地面に設置する瞬間にふくらはぎの筋肉が瞬間的に引き伸ばされて伸張反射が起きます。伸ばされた筋肉が収縮するように働くのが「伸張反応」であるため、ふくらはぎが伸張反応によって収縮することで、足のうらが地面を蹴る動きに変わっていきます。
同じ速度で早歩きをするのと、軽くジョギングのように跳ねるように歩くのでは、後者の方が楽に動けます。これは、反射の力を上手く使っているからです。
そして伸張反射を適切に起こすには、筋肉自体が弛緩していることが重要です。スポーツを教わったことがある人は、「力を抜け」と指導されたことがあると思います。これは、使いたい筋肉に伸張反射を起こさせるためです。
またこの力は筋が伸ばされる時間が短いほど、収縮力も大きくなっていきます。ジャンプをするときに、ゆっくり膝を曲げて跳ぶよりも、「膝を曲げる → 跳ぶ」までの切り返し時間が短いほどより高く跳ぶことができます。
さらに、運動パフォーマンスを向上させる反射は他にも存在します。
回旋系伸張反射
回旋系伸張反射(RSSC;Rotator Stretch Shortening Cycle)とは、「回旋+伸張反射」を意味します。これは、伸張反射というバネが戻される動きに加えて、回旋の動きが入ったものです。
スピードやパワーが要求されるスポーツの場面では、伸張反射(SSC)だけでなく回旋系伸張反射(RSSC)を使いこなすことが重要となります。
回旋の動きが加わることで、以下のような反応が起こるようになります。
・筋肉が束となって動き、動員数が増える
・筋肉の距離が最大限に引き伸ばされる
この2点から結果的に、大きな力を生み出すことができます。
例えば、野球の投球動作においては、回旋系伸張反射(RCCS)の働きを最大限に活用することで、効率的な動作を実現できます。
ボールを投げるとき、着地時から身体が回転していく局面で、肩関節は瞬間的に外旋されます。そのとき、大胸筋や広背筋、僧帽筋が上腕骨の外旋によってねじられていきます。それらのねじられた筋肉が伸張反射によって収縮することで、素早い投球動作が可能となります。
投球動作に限らず、他のスポーツでもこの反射の力が活用されています。ゴルフやテニスであれば、腕を振り上げるテイクバックの動きが伸張反射を利用するための予備動作となっています。
「動きが固い」「動作がギクシャクする」といった悩みがある時は、この伸張反射が機能しているか自身のフォーム・動きを確認し、スポーツのパフォーマンス向上に役立てましょう。