障害予防法

副腎疲労症候群(アドレナルファティーグ)の検査法

副腎疲労症候群(アドレナルファティーグ)は、多くの病院で「原因不明」や「不定愁訴」といわれている人の不調を引き起こしている問題の1つです。
腎臓の上に付着する副腎は、血糖値や血圧を上げたり、体のエネルギーを作り出したりするホルモンを合成して分泌します。そのため、副腎が疲労して機能が低下すると、さまざまな不調が出現します。
ただ、一般的に行われている検査では、重度の副腎機能不全が生じている状態(クッシング症候群やアジソン病)しか検知することができません。つまり、医師は副腎疲労症候群を見抜いて診断することができません。
そこで今回は、「副腎疲労症候群(アドレナルファティーグ)の検査法」について解説します。
 副腎疲労症候群の病院での検査法と解釈の問題点
一般的に、病院で副腎機能の異常が疑われた場合には、主に「血液検査」と「尿検査」の2つが行われます。そこで以下に、それぞれの検査において、何を指標に副腎機能を判断しているのかについて記します。
 ・血液検査
血液検査においては、副腎で合成・分泌された「アルドステロン」と「コルチゾール」と呼ばれるホルモンの濃度を測定します。
副腎で作られたホルモンは、血液に乗って全身の細胞に届けられます。そのため、これらのホルモンがどれだけ血液中に含まれているかを確認することで、副腎の機能を測ることができます。
ただ、血液検査にはいくつかの問題点があります。その内の1つは、「血液検査の結果には各細胞内に含まれるホルモンの量が反映されていない」ということです。既に述べたように、副腎で合成されたホルモンは、血液を介して全身にある各細胞に届けられます。そして、ホルモンは到達した細胞に対して何かしらの働きかけをします。
例えば、「アドレナリン」が心臓に行き着くと、心拍数を高めたり、心臓から送り出す血液量を多くしたりします。また同じアドレナリンであっても、血管に到達すると、血管を収縮させる作用を発揮します。
このように、ホルモンは血液を介して各細胞に届けられます。
そのため、血液検査の結果として出たホルモン値は、既に細胞へ到達しているホルモンを含んでいません。つまり、血液中のホルモン値を測っても、副腎で合成・分泌された正確なホルモン量を測定できていないといえます
例えば、AさんとBさんという人がいて、2人とも副腎でホルモンが100作られたとします。ただ、Aさんは心臓へ副腎ホルモンが20到達して働いているのに対して、Bさんは心臓には10しか届いていません。そうした場合、血液検査のホルモン値は、Aさんが80(100-20)、Bさんが90(100-10)という結果になります。
*実際にはこれほど単純ではありません
つまり、副腎は同じように働いて100のホルモンを作っているにも関わらず、血液検査では相違が生じてしまいます。
このように、一般的に行われている血液検査では、正確な副腎機能を測定することはできません。
 ・尿検査
血液検査と並んで副腎の機能を測定する検査の代表的なものとして、尿検査が挙げられます。
尿検査では、24時間で尿の中に排泄された「コルチゾール」と呼ばれる副腎ホルモンの値を測定します。コルチゾールとは、副腎で合成される「ステロイドホルモン」の一種であり、尿中に含まれるコルチゾール値を測ることで、他のステロイドホルモンである「コルチコステロイド」「アルドステロン」「性ホルモン」の産出量を予測することにもつながります。
ただ、こうした24時間尿中コルチゾール検査では、「1日で排出された全ての尿がまとめられてしまう」という問題があります。
副腎疲労症候群の人は、1日の中で症状に大きな変動があります。例えば、「朝は体調が優れないけれども、夕方以降は元気になる」といった人は多いです。そして、こうした日内の変化は、ホルモン濃度の上がり下がりが影響していると考えられます。
そのため、1日の尿を全てまとめてしまうと、その変動がわからなくなってしまいます。つまり、朝のホルモン値が異常に低くても、その分だけ夕方に大量のホルモンが分泌されていると、お互いに打ち消し合って「正常値」となります。
24時間尿中コルチゾール検査には、こうした問題点があるため、正確に副腎疲労症候群を検知することができません。
 ・検査結果の解釈に対する問題点
血液検査と尿検査には、それぞれに副腎疲労症候群を見逃すことにつながる欠点があります。また、これら2つの検査に限ったことではありませんが、多くの医師が行う検査結果の解釈方法にも、副腎疲労症候群が見落とされてしまう原因があります。
それは、検査結果を正常と異常のどちらか一方で判断することです。血液検査のデータには、各項目ごとに「正常範囲」が決められています。
例えば、糖尿病を診断する指標の1つである血糖値(血液中の糖分量)であれば空腹時血糖が126mg/dL、食後血糖値が200mg/dL以下であれば正常だとされています。これは、血液検査だけではなく、血圧などにも正常範囲が定められています。
そして医師の多くは、検査結果が正常範囲内に収まっているかどうかで、正常か異常かを判断します。糖尿病を例に挙げると、空腹時血糖が100mg/dLであれば正常であり、130mg/dLであれば糖尿病と診断されます。
副腎機能に対する診断も同様であり、血液検査や尿検査におけるホルモン値が正常範囲から外れていると、副腎機能異常と診断されます。具体的には、正常範囲以上だとクッシング症候群、正常範囲以下であればアジソン病と診断されます。
確かに、こうした正常範囲を基準にすれば、医者によって診断が変わることを防ぐことができます。新人の医者であっても、ベテランのドクターと同じ診断を下すことが可能です。
ただ、正常範囲から外れているかどうかだけで判断することには、いくつかの問題があります。具体的な例として、個人差が考慮されていないことは、正常範囲によって診断されることの問題点の1つとして挙げられます。
ホルモン値にしても血圧にしても、人によって適正な数値は異なります。
例えば、最大血圧が130mm/Hgのときが体の調子が良い人がいたといます。ここでは、最大血圧の正常範囲を135~90mm/Hgと仮定します。そうすると、この人は最高血圧が130mm/Hgであっても、100mm/Hgでも正常と判断されます。
しかし実際には、普段の最大血圧が130mm/Hgである人が、最高血圧が100mm/Hgしかなければ、何かしらの不調が出現します。ただ、病院を受診しても、血圧は正常範囲内であるため異常なしと診断されます。
また極端な例をいうと、最高血圧が134mm/Hgの人は「正常」で136mm/Hgの人は「高血圧」と診断されます。
このように、検査結果を正常範囲で判断することには問題があります。そして、副腎疲労症候群を患っている人の多くは、診断基準となっている血液中や尿中のホルモン値は、一般的に正常範囲とされている範囲にあります。
例えば、あるホルモン値の正常値が1.0~3.0だったとします。つまり、ホルモン値が1.0未満であるとアジソン病、3.0を超えているとクッシング症候群と診断されます。
こうした中で、健康なときのホルモン値が2.5である人が1.0や1.2となれば、副腎疲労症候群を患っている可能性が高いといえます。ただ、このようなケースでも検査結果の数値は正常範囲内であるため、病院では正常だと判断されます。
以上のように、血液検査や尿検査による診断には、そもそも検査結果の解釈方法に問題があることを理解しておく必要があります。
 副腎疲労症候群を正確に検知する唾液ホルモン検査
一般的に、病院で副腎機能を検査する際には、血液検査と尿検査が行われます。しかし、これら2つの検査には、それぞれにおいて副腎疲労症候群を見逃してしまう要素があります。
そこで、より正確に副腎疲労症候群を診断するための検査方法として「唾液ホルモン検査法」が挙げられます。唾液ホルモン検査法では、1日に4回、小型の瓶に唾液を吐いて、そこに含まれるコルチゾールの量を測定します。
唾液から測定されるホルモン値には、血液検査や尿検査で見落とされてしまう細胞内のホルモン値が反映されています。また、1日4回に分けて調べるため、日内におけるホルモン値の変動を確認することもできます。つまり、唾液ホルモン検査は血液検査と尿検査の欠点を補っている検査法だといえます。
さらに、唾液ホルモン検査は血液検査や尿検査と比べると簡便です。
実際に、唾液ホルモン検査は副腎疲労症候群を検知するための検査として「最も正確で信頼性が高い」ということが多くの研究で明らかになっています。
こうしたことから、副腎疲労症候群を診断するためには、血液検査や尿検査だけでなく唾液ホルモン検査も行うことが大切です。そして、これらの検査結果を総合的に判断することで、その人の病態をはじめて適切に捉えることができるようになります。
ちなみに、日本で唾液ホルモン検査を行ってくれる病院は、「アドレナルファティーグ(http://adrenalfatigue.jp/links.html)」に掲載されています。
 副腎疲労症候群を自分で見つける方法
副腎疲労症候群を診断するためには、血液検査と尿検査、唾液ホルモン検査を行って、全ての結果を総合的に捉える必要があります。また、副腎疲労症候群の診断においては、こうした病院で行われる検査だけではなく、あなた自身が自覚している症状も重要になります。
例えば、副腎疲労症候群の人には「朝起きるのがつらい」「寝ても疲れが取れない」というように、特徴的な症状があります。
唾液検査などの結果に加えて、こうした自覚的な症状を組み合わせることで、より正確な診断ができるようになります。そして、あなたが感じている問題と副腎の疲労によって現れる不調を照らし合わせることで、副腎疲労症候群を見つけ出すことができます。
そこで以下に、副腎疲労症候群によって生じる代表的な症状を以下に記します。
・目覚めが悪い、朝起きれない
・疲れが取れない、寝ても疲労感が残る
・塩辛いものを過剰に好むようになる
・常に倦怠感があり、何もやる気が起きない
・ちょっとしたことで疲れる
・性欲がなくなる
・ストレスに対応できなくなる、その結果、イライラしたり、過食やタバコ、飲酒を止められなくなったりする
・病気や怪我がなかなか治りにくくなる
・立ちくらみがする
・うつっぽくなる
・PMS(月経前症候群)が悪化する
・頭がボーっとする
・記憶力が悪くなる
・夕食後に元気になる
もしあなたが感じている不調が、以上の特徴に当てはまるのであれば、副腎疲労症候群を患っている可能性は高いといえます。
また、これらの症状と唾液ホルモン検査で検知されたホルモン値の日内変動を組み合わせると、より正確に副腎疲労症候群を診断することにつながります。
具体的には、朝は調子が良いけれども、夕方に「頭がボーっとする」「立ちくらみがする」という人が、副腎ホルモンの値も「朝は高く、夕方は低い」という状態であれば、副腎疲労症候群である可能性は、より高くなるといえます。
ただ、唾液ホルモン検査を実施している病院が近くになかったり病院に行く時間がなかったりする人は、副腎疲労症候群の特徴的な症状とあなたの不調を比較するようにしましょう。そうすることで、あなた自身で副腎疲労症候群を見つけ出すことができます。
今回述べたように、副腎疲労症候群を正確に診断するためには、血液検査と尿検査、唾液ホルモン検査を総合的かつ正しく解釈する必要があります。また、あなたが自覚している症状も、副腎疲労症候群の診断には欠かせない要素になります。
こうした副腎疲労症候群の検査法を理解しておくことで、副腎疲労症候群の見逃しを避けることができるようになります。