糖尿病

糖質制限が有効な病気:糖質制限は糖尿病(DM)以外も予防する

糖尿病の予防と治療に効果的な食事療法として、「糖質制限食」があります。糖質制限食は、1日の糖質量を130グラム以内にした食事のことを言います。
糖質量を抑えることで、食後の高血糖(血糖値が高い状態)と、それに伴うインスリンの過剰分泌を防ぐことができます。また、インスリンとは、膵臓(すいぞう)から分泌され、血糖値を下げる役割があるホルモンです。
高血糖は、体にさまざまな悪影響を与えます。動脈硬化は、その代表例になります。また、インスリンには、体に脂肪をため込む作用があります。そのため、インスリンの過剰分泌を抑えられる糖質制限食は、糖尿病だけでなく肥満にも効果的です。
また、肥満は、糖尿病の病態を悪化させます。そのため、肥満を改善できる糖質制限食は、結果的に2重の意味で糖尿病に有効です。
このように、糖尿病の予防と治療に有効な糖質制限食ですが、その効果はこれだけに留まりません。アレルギーや認知症など、多くの人が悩んでいる病気のほとんどに何らかの影響を与えることがわかっています。
そこで今回は、糖質制限食の効果について解説します。

糖尿病に関する効果

糖質制限食に、血糖コントロールの改善と、肥満の解消の効果があることは証明されています。しかし、その他にも、糖尿病患者に対して、さまざまな好影響を与えることが予測されています。
その1つが、膵臓のインスリン分泌能力の回復です。糖尿病の1つの病態として、膵臓の疲弊によるインスリン分泌低下があります。
糖質制限食を実践すると、インスリンの必要量が減ります。そのため、膵臓は休息することができます。通常では、一旦、失われた膵臓の能力は、改善することは困難とされていました。しかし、糖質制限食によって、膵臓のインスリン分泌能は改善する可能性があります。
これは、実際の数値でも明らかになっています。
また他にも、糖尿病の合併症の回復も可能性として挙げられます。糖尿病には、3大合併症として「腎症」、「網膜症」、「神経症」が知られています。また、大血管性合併症として、脳卒中や心筋梗塞もあります。
このうち、腎症と網膜症、大血管性合併症に対しての回復と予防効果が期待されています。
3大合併症と大血管性合併症は、ともに高血糖の影響で起こる動脈硬化が原因です。そのため、糖質制限食を実践することで、高血糖状態を避けることができれば、明らかに糖尿病の合併症の予防効果があるはずです。
また、一般的には、腎症や網膜症などは、「発症した後は進行していくだけ」という認識がされています。しかし、糖質制限食によって、その能力が回復する場合もあるようです。
これらに関しては、まだまだ仮説の段階で、明確な効果が証明されているわけではありません。しかし、糖質制限食の1つの可能性として、頭に入れておいても良いかと思います。

糖質制限食とがんの関係性

また、糖質制限食は、がんに対しても効果があることが報告されています。がんは、多くの人の死因となる病気です。そのため、たくさんの研究が行われていますが、その発症率は下がることはありません。
そこで以下に、糖質制限食と「がん」の関係性について解説します。

高インスリン血症、高血糖、肥満と発がん

高インスリン血症(インスリンの働きが悪いことで、血液中に大量のインスリンが分泌された状態)と高血糖(血糖値が高い状態)、肥満は、がんの発症率を上げることが明らかになっています。
高インスリン血症に関しては、大規模な信頼できる研究で発がんとの関係性がいくつか証明されています。そのため、高インスリン血症が発がんリスクとなることは、間違いないと考えていいです。
高インスリン血症と発がんの関係性は、インスリンが各種組織の成長を促す作用をもっていることにあります。つまり、インスリンは、がん細胞の形成や増殖に影響するということです。
高血糖に関しても、さまざまな報告がされています。その多くは「JAMA」という信頼性の高い研究雑誌に掲載されており、膵臓や食道、肝臓、結腸、肝臓、子宮頸部のがんなどとの関係性が明らかになっています。
高血糖による発がんのメカニズムは、仮説の段階ですが、細胞のDNA損傷が関係していると言われています。
がんは、細胞のDNAの異常によって起こる可能性が示唆されています。高血糖は、大量の活性酸素を発生させます。活性酸素は、細胞への「酸化ストレス」を増大させ、DNA障害を引き起こします。それにより細胞の「がん化」が起こります。
また、肥満も発がん率を上げることが分かっています。
肥満は、インスリン抵抗性を高くします。インスリン抵抗性が高い状態とは、組織でのインスリンの利用が上手く行うことができないことを指します。そのため、結果的に、高インスリン血症を引き起こします。
つまり、「肥満 → インスリン抵抗性 → 高インスリン血症 → 発がん」、「高血糖 → 活性酸素 → 酸化ストレス → DNA障害 → 発がん」という2つの機序で発がんのつながるということです。
そのため、高インスリン血症と高血糖、肥満の予防に効果的な糖質制限食は、がん予防にも効果的と言えます。

がん細胞はケトン体を利用できない

細胞が活動するためには、エネルギーが必要です。そのエネルギー源となるのが、糖質と「ケトン体」の2つになります。
ケトン体は、脂肪が分解されることでできる物質です。人間のエネルギー源というと、一般的には、「ブドウ糖」が知られていますが、実は、人間の主なエネルギー源は、このケトン体になります。
糖質を摂取し、血糖値が上昇しているときは、エネルギー産生には、主にブドウ糖が利用されます。しかし、空腹時や睡眠時などは、主にケトン体によってエネルギーが作られます。
糖質制限食を実施すると、食事による血糖値の上昇がほとんど起こりません。そのため、大半のエネルギー産生は、ケトン体をもとに行われます。そして、「がん細胞」はブドウ糖しかエネルギー源にできないことが明らかとなっています。
つまり、糖質制限食を行っていると、がん細胞はエネルギー不足で、その成長や増殖が抑制されます。
もちろん、一定量の血糖値は維持されていますので、完全に0ではありません。しかし、大量に糖質を摂取する場合と比べると、相対的にがん細胞のエネルギー不足を作ることができます。そのため、糖質の摂取量を制限することで、ある程度のがん抑制効果は期待できるはずです。
また、糖質制限食は、体全体の代謝を安定させます。そのため、免疫系を中心とした、自然治癒力が高まります。このことから、糖質制限食を実践することで、がんに対する何らかのプラスの影響があることが期待されます。
このように、糖質制限食は、がんに対して好影響を与える可能性が示唆されています。ただ残念ながら、糖質制限食が、発がんリスクに直接影響を及ぼすというエビデンス(根拠や証拠)はありません。しかし、高血糖と、高インスリン血症に発がんリスクがあることは明らかになっています
そして、糖質制限食は、発がんリスクである高血糖と高インスリン血症の予防、改善に効果があります。
このような理由からも、糖質制限食は、発がんに対して効果があることがわかります。多くの人が悩まされている「がん」も、実は、あなたが普段食べている、糖質に原因があるのかもしれません。

糖質制限食によって期待されるその他の効果

糖質制限食は、糖尿病に関することだけでなく、その他にもさまざまな効果が認められています。その代表例として、アレルギー疾患と認知症が挙げられます。

アレルギー疾患

アレルギー疾患では、アトピー性皮膚炎や、乾燥肌、花粉症などでの効果が認められているようです。その作用機序は明らかになっていませんが、糖質をほとんど摂らない種族には、アレルギー性疾患がほとんどなかったという報告もあります。
このことからも、糖質制限食には、アレルギーに対して、何らかの影響を与える可能性があると考えてよさそうです。

認知症

糖質制限食が、アルツハイマー型の認知症のリスクを下げることは、さまざまな報告がなされています。そのメカニズムは、アルツハイマー病の原因として知られる「β(べーた)アミロイド」に関係します。
アルツハイマー病は、脳細胞にβアミロイドが沈着することが原因とされています。そして、このβアミロイドを分解しているのが、インスリン分解酵素であると言われています。
高血糖状態にあると、インスリンの分泌が過剰になります。そうなると、放出されたインスリンを処理するために、インスリン分解酵素も大量に必要となります。その結果として、βアミロイドの分解が疎かになり、アルツハイマーにつながります。
今回述べたように、糖質制限食は、糖尿病に対してはもちろんのこと、その他にもさまざまな病気に対する効果が期待されています。その可能性を知り、糖質制限食を実践することで、あなたの健康寿命を延ばすことができるはずです。