糖尿病

糖尿病ケトアシドーシスと生理的ケトン体増加の違い

糖尿病の合併症の一つに「糖尿病性ケトアシドーシス」があります。これは、緊急入院が必要となるような危険な状態で、血中ケトン体の異常な上昇が認められます。多くの人は、「ケトン体増加が原因で糖尿病性ケトアシドーシスが生じる」と考えていますが、それは間違っています。
糖尿病性ケトアシドーシスにおける血中ケトン体値の上昇は、結果であって原因ではありません。ケトン体値が上がるのには、理由があります。
表面上出ている症状は、血中ケトン体値の上昇に伴うものであることは間違いありません。しかし、血中のケトン体値の増加や、尿中ケトン体値が陽性であっても、とくに心配することはありません。もちろん、糖尿病がある場合は、糖尿病性ケトアシドーシスを考慮する必要があります。
今回は、ケトン体値の上昇について、「生理的な上昇」と「結果として起こる病的な増加」の違いについて解説します。
 ケトン体値の生理的な上昇
ケトン体とは、脂肪から作られる物質です。体は、ケトン体をエネルギー源として使用することができます。体が使うことができるエネルギーは、主に、糖と脂肪酸、ケトン体の3つになります。
食事によって糖質を摂取した後、血糖値(血液中の糖の量を示す値)が上昇している間は、主に糖からエネルギーが作られます。しかし、食後約4時間経過すると、血糖値は低下します。そのため、空腹時や睡眠中などでは、エネルギーは脂肪酸とケトン体から生み出されます。
そのため、糖質を制限した食事を行っていると、ケトン体値は上昇します。
またケトン体は、酸性物質であることから、その値が上昇すると血液が酸性に傾く(アシドーシス)と考えられています。しかし、この考え方は間違っています
体は、血液の緩衝作用や、呼吸、腎臓の働きによって、酸塩基平衡の崩れを厳格に調整しています。それは、血液中の酸塩基のバランスが少しでも崩れると、細胞の活動が障害されてしまうからです。人の体は細胞の塊でできています。細胞の働きが妨げられると、体の全ての働きに問題が生じます。
そのため、糖質制限食によって、ケトン体値が上昇しても、血液が酸性に傾くことはありません
つまり、このように糖質制限を行ってケトン体が上昇している場合は、アシドーシスを招くことはありません。そのため、体にとって危険な状態ではなく、生理的なものであるといえます。
 病的なケトン体値上昇
糖尿病性ケトアシドーシスで起こる、病的なケトン体値の上昇は、「インスリン」というホルモンの欠乏によって起こります。インスリンは、血中から細胞内への、糖の摂り込みを促す作用があります。
つまり、インスリンは体の代謝に深く関わっています。そのため、インスリンの働きが極端に低下すると、既に述べたような、酸塩基平衡を維持する「血液緩衝作用」に問題が生じます
そのような状態で、血中のケトン体値が上昇すると、血液は酸性に傾いてしまい、「アシドーシス」と呼ばれる状態になります。アシドーシスは、病的な状態であり、生命の維持に影響します。例えばアシドーシスでは、以下のような症状が認められます。
 ・口渇、多飲、多尿
 ・腹痛
 ・悪心
 ・嘔吐、脱水
 ・意識障害
このような症状に、尿中ケトン体値の陽性が認められれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断されます。
つまり、糖尿病性ケトアシドーシスにおけるケトン体値上昇は、インスリン作用欠乏によって、結果的に生じるものです。そのため、生理的に起こるケトン体値の増加とは全く原因が異なります。糖尿病性ケトアシドーシスの進行状況は、以下のようになります。
インスリン作用不足 → 拮抗ホルモンの過剰 → 代謝障害 → 糖利用の低下・脂肪分解の亢進 → 高血糖・高遊離脂肪酸血症 → ケトン体高値」
今回述べたように、糖質制限食によって起こるケトン体値の上昇と、糖尿病性ケトアシドーシスで認められるケトン体値の増加は、その機序と病態が全く違います。まずは、ケトン体値が増えても、血液が酸性に傾くことはないということを理解しておく必要があります。
そもそも、アシドーシスのような危険な状態にあれば、必ず体は危険信号として何らかのサインを出します。糖質制限中にケトン体値が上昇しても、全く自覚症状がない場合、ほとんどアシドーシスの心配はいりません。
糖尿病の人、ダイエットで糖質制限食を実践している人は、こうした生理的ケトン体値の上昇とケトアシドーシスの違いを理解しておくことが大切です。