糖尿病

糖尿病の理解に必要な「糖新生」:血糖値を維持するメカニズム

血糖値の異常は、さまざまな症状を引き起こします。糖には血管を傷つける作用があるため、血糖値が高くなると、動脈が傷害されて動脈硬化が起こります。動脈硬化は、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすだけでなく、腎臓の働きを悪くしたり、視力を低下させたりします。
また逆に、低血糖は、気分の落ち込みやイライラなどの精神的症状から、体の冷えやふるえ、脱力感などの身体的な問題まで引き起こします。
体は、命の危険を感じると、痛みや冷えなどの「不快な刺激」を使って、その人に危険な状態であることを知らせようとします。つまり、体に現れる症状の多くは、生命を守るために体が発している危険信号ということです。極端ですが、そのような体からのサインを無視し続けると、生命を維持できなくなります。
先ほど述べたように、血糖値の異常は、多彩な症状を引き起こします。つまり、血糖値が高くなったり低くなったりすることは、体にとって、とても危険な状態であると言えます。
そのため、体には、血糖値を厳格に調整する機能が備わっています。そのうちの1つに肝臓が行う「糖新生」というものがあります。
そこで今回は、糖新生について解説します。
 血糖値が下がるとどんな問題が起こるのか?
糖は、体を動かすためのエネルギー源になります。しかし、人間の細胞のほとんどは、糖質以外からもエネルギーを生み出すことができます。特に、「脳には糖が必要不可欠」だという認識がありますが、これは間違っています。脳は、脂肪などからもエネルギーを作ることができます
ただ通常であれば、脳は全身の血糖の20~30パーセントを利用しています。そのため低血糖状態になると、脳の活動を抑えて無駄なエネルギー消費を起こさないようにします。
その結果、集中力の低下やイライラなどの精神不安定といった状態になります。また、さらに症状が進行すると意識障害などを引き起こす可能性があります。
一方で赤血球は、エネルギーを糖からしかつくれません。赤血球は、血液の中にある細胞の1つであり、全身に酸素を届ける役割があります。
そのような赤血球の障害で、良く知られているのが「貧血」です。貧血では、血液の酸素運搬能力が低下することで、全身の細胞が低酸素状態になります。そのため、倦怠感などのさまざまな症状が出現します。一般的に、めまいやふらつきなどが起こる程度で、そこまで問題視されていないのが現状です。
しかし、貧血は、全身の細胞がエネルギー不足に陥っている状態です。つまり、細胞が充分に活動できないということです。人の体は、全て細胞からできています。全身の細胞の働きが悪くなるということは、筋肉や内臓、皮膚など、どの組織にどのような問題が生じてもおかしくないということです。
それくらい、赤血球は体にとって大切ということです。そして、その赤血球が働くためには、糖が必要不可欠です。最低限の血糖値が維持されているのは、赤血球のためといっても過言ではありません。
その最低限の血糖値を維持している体の機能が、肝臓で行われる「糖新生」です。
 糖新生とは
先ほど述べたように、糖は体にとって必要不可欠な物質です。しかし、糖は体内で作ることができるため、体外から摂取する必要はありません。糖を自ら生み出す機能を、糖新生といいます。
糖新生は、肝臓で行われます。脂肪やタンパク質、乳酸など、糖以外の物質を使って、糖を作り出します。具体的には、以下のような経路によって作られます。
① 脂肪組織 → グリセロール → 肝臓 → 糖新生 → 筋肉、脂肪細胞
② 筋肉 → アミノ酸 → 肝臓 → 糖新生 → 筋肉、脂肪細胞
③ ブドウ糖代謝 → 乳酸 → 肝臓 → 糖新生 → ブドウ糖(血糖) → 筋肉、脂肪細胞
③の経路は、糖を利用しますが、①、②は全く糖を必要としないため、糖新生に糖質は必須ではありません。
この糖新生は、常に体の中で行われています。食事で糖質を摂った後は、その働きは抑えられていますが、空腹時や睡眠時は、休むことなく糖を作り出しています。これによって、赤血球に必要な血糖を確保しているのです。
赤血球の欠乏は、体にとってかなり危険な状態です。そのため、この糖新生による血糖調整は、厳密に行われています。そのため、通常では、血糖値が最低限より低下することはありません
今回述べたように、赤血球は糖しかエネルギー源にできないため、体にとって糖は必要不可欠な物質です。しかし、赤血球に必要な分の糖は、肝臓で行われる糖新生によって充分まかなえます。そのため、人は、食事で糖分を摂取しなくても良いということです。
糖新生の知識は、糖尿病の人だけでなく、ダイエットを行う人にも役立つ知識です。今回の記事をきっかけに、もう一度、あなたの食事について考えてみてください。