体の機能

免疫システムに影響する因子:年齢、体温、自律神経、放射線

免疫が体の健康にとって大切なことは、誰もが知っている通りです。免疫とは、体に入った異物を除去するなどの機能を指します。免疫機能が低下すると、簡単に風邪を引いたり、感染症になったりします。
そのため、免疫機能は、健康のためだけではなく、生命維持のためにも欠かすことができないものです。
そして、免疫機能にはさまざまな要因が影響を与えます。その中でも、加齢によって起こる変化と、体温、自律神経、放射線が免疫機能に与える影響を理解しておくことは重要です。
そこで今回は、「免疫システムに影響する因子」について解説します。

年齢と免疫の関係性

免疫機能は、年齢によって自然と変化します。こうした年齢による免疫システムの違いを知ると、年齢に応じて注意すべきことが理解できます。
そこで以下に、年齢と免疫の関係性について記します。

生物の進化に伴う体の変化

生物は、1つの細胞からなる「単細胞生物」という単純な体の作りから始まりました。そこから、複数の細胞で構成される「多細胞生物」へと少しずつ進化を重ね、さまざまな体の機能を獲得しました。
多細胞生物は、初めは、皮膚と、口から肛門までの腸管という、単純な体の作りをしていました。このような構造のため、皮膚は常に海水と接し、腸内にも海水のさまざまな有害物質が簡単に入り込んでいました。
そして、そのような異物と接する機会が多い、皮膚やえら、腸に、自然と免疫細胞が集まりました。そこから、それぞれの免疫細胞へと進化しました。
また、生物が水中から陸上に上がると同時に、免疫システムも変化しました。
陸上での生活になることで、えら呼吸は肺呼吸になりました。さらに循環系が発達して血管もできました。このような進化によって、ほこりなどの異物などが体内に浸入しやすくなりました。そのため、それに合わせて免疫システムが進化したのです。

新しい免疫システム

このように、陸上の生活に変わる際に、新しい免疫システムが獲得されました。
えらは、一部以外は「胸腺」と呼ばれる器官に進化しました。えらには、もともと免疫細胞が多くありました。そのため、えらに由来する胸腺では、「T細胞」などの進化した免疫細胞が作られます。
胸腺とは、心臓のやや上方にある器官であり、主にT細胞を作ります。
T細胞は、骨の中にある「骨髄(こつずい)」で作られ、胸腺で教育されます。そして、T細胞には、体内に侵入した異物を攻撃する役割があります。
しかし、胸腺は20代をピークに萎縮します。そして、脂肪の塊となって、その機能を果たさなくなります。それに伴い、骨髄やリンパ節、脾臓といった、他の免疫関連器官も、機能が低下してしまいます。

古い免疫システム

新しいシステムだけだと、加齢によってどんどん免疫機能は低下し、病気にかかりやすくなるような印象を受けます。しかし、心配はいりません。人の体には、年を重ねるごとに、機能を発揮する免疫システムも備わっています。
それは、陸上に上がる前に、活躍していた免疫システムです。それに関わる免疫細胞は、腸や肝臓などで作られます
新しい免疫システムでは、免疫細胞である「T細胞」が外部から侵入した異物を除去していました。それに対して、古い免疫システムで主となる免疫細胞は、体の中で異常化した細胞を排除するような役割を果たします。
人は、老化に伴い体内の細胞が異常化しやすくなります。このような細胞の異常は、老化とともに起こる病気の原因となります。例えば、がんはその典型例です。
つまり、新しい免疫システムは、外から侵入してくる的に対抗するものであり、古い免疫システムは、体内での異常を監視しているものなのです。
以下に、それぞれに関わる器官と免疫細胞を記載します。

 

新しい免疫システム

古い免疫システム

器官

・リンパ節

・胸腺

・脾臓

・涙腺

・耳下腺

・扁桃

・顎下腺

・乳腺

・肝臓

・腸管

・虫垂

・子宮

免疫細胞

・T細胞

(ヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞)

・B細胞

・NK細胞

・胸腺外分化T細胞

・好中球

体温と免疫の関係性

健康のためには、「体温が高いことが大切である」ということは誰もが知っていることです。細胞が活動するためには、一定の体温が必要です。体温が一定以上に低下すると、細胞は生きることができません。そのため、体温の低下はさまざまな病気と関係しています。
体温の低下で起こる問題に、体の免疫機能の低下が挙げられます。いわゆる「免疫力」と呼ばれるものです。
そこで以下に、体温と免疫の関係性について解説します。

正常な体温

体の細胞が生存するためには、体温が必要です。高すぎても低すぎても、細胞の働きは悪くなります。細胞の活動に最も適した体温は36.5~37.0℃と言われています。
昔は、日本人の平均体温も36.8℃というように、細胞が活動しやすい体温だったとされています。しかし、現代では、ほとんどが36.0℃前後、低い人では35℃未満の人もいます。このように、以前と比較して低体温の人が圧倒的に多くなっているのです。
これには、生活環境の変化が影響しています。現代では、エアコンなどで外部環境が常に整っています。そのため、現代人の体の体温調節機能は弱くなっています。
さらに、食生活の変化や夜型生活など、生活習慣の不摂生も、体温が低下している原因です。
 体温と免疫の関係
体温と免疫機能には密接な関係があります。そのため、体温は誰でも手軽に測定できる、免疫機能の指標になります。
先ほど述べたように、最も細胞の活動が活発になるのは、36.5~37.0℃です。免疫機能が最大になるのも、この状態の体温です。そして、体温が1℃下がると、免疫機能が30パーセントも下がると言われています。一方、体温が1℃上がると、免疫機能は5~6倍になるとされています。
体温の低下は、血液の流れを悪くします。これにより、全身の代謝が低下し、さまざまな問題が引き起こされます。
細胞に栄養が届かないと、細胞は活動できません。また、細胞に老廃物が溜まっていても、その働きは妨げられます。体温が低下した場合、このようなことが、全身のどこに起こってもおかしくありません。そのため、体温の低下はいろいろな症状を引き起こします。
その中でも、がんは、体温の体への影響を説明するときによく使われる病気です。がんは、体温が35.0℃で最も増殖し、39.3℃以上で死滅すると言われています。つまり、がんも体温に、大きく影響される病気ということです。
そのような理由から、がんの治療法には、温熱刺激を用いた治療もあります。
 体温の変化
体温は、さまざまな要因で変化します。その代表的なものが「日内変動」です。体温は、午前3~5時の間に最も低くなります。そして、その後は午後5時辺りまで上昇し続けます。最低体温と最高体温は1℃近く違います。
また、体温は年齢によっても異なります。誰でも感じることですが、赤ちゃんの体は温かいです。一方、年を重ねるごとに体温は低下するため、高齢者の体温は低いです。
体温の低下は、高齢者が病気にかかりやすい理由の1つになります。そのため、高齢者は、体温を維持するために、体温を作り出す筋肉の衰えを予防することが大切です。特に、筋肉の70パーセント以上は下半身にありますので、下半身の運動を行うことが重要です。
他にも、食生活の不摂生や薬剤の使用、ストレス、睡眠不足なども、体温の低下を招く原因になります。このように、体温はさまざまなものからの影響を受けているのです。

自律神経と免疫の関係性

自律神経は、免疫機能に大きな影響を与える要因の一つです。「笑うことで免疫が高くなる」ということは有名ですが、これには自律神経が関係しています。
そこで以下に、自律神経と免疫の関係性について記します。

自律神経と免疫機能

自律神経とは、心臓や血管など、人間が生きていく上で欠かせない臓器の運動を、無意識下でコントロールしてくれる神経です。そのため、人の身体は、自律神経のおかげで生存できているといっても過言ではありません。
また、自律神経は、興奮時に働く「交感神経」と、リラックス時に活動する「副交感神経」の2つに分類されます。さらに、自律神経は免疫機能とも深い関係にあります。
免疫機能とは、ウイルスや細菌などの、体にとって異物であるものが体内に侵入した際に、防御、排除する働きです。免疫機能があるために、人は簡単に病気には罹りませんし、病気になっても治ります。
そのため、健康に免疫機能は必要不可欠なものだと言えます。そして、免疫機能は自律神経のバランスによって大きく変化します。
免疫機能を担っている細胞は、白血球と呼ばれるものです。白血球はさらに、「リンパ球」と「顆粒球」に分けられます。この、リンパ球と顆粒球のバランスが、免疫機能を語る上でのポイントになります。
免疫機能が高い人の場合、「リンパ球:顆粒球=40:60」というバランスが保たれています。これは、どちらの数値が上がり過ぎても問題です。
そして、交感神経が過剰に働くと顆粒球の数値は高くなり、副交感神経が活発になるとリンパ球の数が多くなるという関係があります。そのため、免疫機能は、自律神経のバランスに依存していると言えます。
交感神経と副交感神経のどちらの働きが強くなっても、免疫機能には問題が生じます。
ストレス社会である現代は、交感神経が過剰に活動していることで、免疫機能が低下している人がほとんどです。そのため、多くの人は、副交感神経の働きを促すことで、免疫機能を高めることができると言えます。

笑いと免疫機能の関係性

笑いが免疫機能と関係しているということは、多くの人が聞いたことがある話だと思います。
笑っている時は、基本的にリラックスしています。試験前やスポーツの試合前など、緊張しているときは、笑顔が消えるものです。
このように、笑いは副交感神経が優位なときに起こりやすいと考えられます。また、逆に笑うことが副交感神経を活性化させるとも言えます。そのため、緊張しているときは、無理にでも笑うと、リラックスできるものです。
先ほど述べたように、ほとんどの人は、交感神経の働きが過剰になることで、免疫機能が低下しています。そのため、笑うことで副交感神経を活性化させることは、免疫機能を高める結果となります

笑うことでナチュラルキラー細胞(NK細胞)を発生させる

このことは、さまざまな実験によって証明されています。
初めて、笑いによる身体への影響を提唱したのは、アメリカの「サタデー・レビュー」という書評・評論誌だと言われています。
ここには、10分間の大笑いをすることで、痛みの軽減や睡眠の質の向上が認められたと報告されています。
また日本でも、笑いによる身体への影響は研究されています。
日本で最も有名なのは、医師であり、笑いの研究家である伊丹仁明氏による研究です。この実験は、がんや心臓病の人が、お笑い劇を観る前と観た後、血液がどのように変化するかを確認したものです。
その結果、3時間大笑いした後は、19人中1人に、リンパ球の活動指標である「NK細胞」の数値が高くなっていることがわかりました。
これは、笑いによって副交感神経が活性化され、リンパ球細胞の活動が活性化されたことが予測されます。また、NK細胞は、毎日生まれる「がん細胞」を攻撃し、破壊してくれる役割があります。
他にも、「笑いと関節リウマチの痛みの関係」や「笑いと血糖値の関係性」、さらに「笑いと遺伝子の関係性」など、笑いのさまざまな効果が報告されています。

放射線と免疫機能の関係性

また、放射線も免疫機能に関係しています。
放射線は、体にとって害のあるものとして知られています。特に、原子力発電所の問題以降は、一般の人々の放射線に対する関心は高くなりました。
確かに放射線は、多量に浴びると非常に害があります。しかし、微量であれば体にとって有益な作用をすることがわかっています。このことを、「ホルミシス作用」といいます。このホルミシス作用が、体の免疫を高めることがわかっています。
そこで以下に、ホルミシス作用が体へ与える影響について解説します。

ホルミシス作用とは

ホルミシスと言う言葉は、アメリカのミズーリ大学の教授であった、トーマス・D・ラッキーが作った言葉です。これは、「多量に使うと強い害を及ぼす放射線でも、微量であればプラスの効果がある」というものです。つまり、体のさまざまな機能を活性化させる、微量の放射線の持つ働きのことを言います。
自然界には、空気や食べ物などから微量の放射線が、人間の体に降り注いだり、体内に直接入ったりします。どのような人でも、1年間に24mSv(放射線の単位)くらいの放射線は浴びていると言われています。
このように、常時人の体に影響している放射線は、浴びれば浴びるだけ体に蓄積していくと考えられていました。しかし、実はそうではなく、少量の放射線は、むしろ体の細胞を活性化する役割があることがわかりました。
そのことを利用した治療として、放射線治療などが行われています。体に程よい量の放射線を加えることで、体の細胞を刺激し、治癒力を高めるというものです。
他にも、ラジウム含有量の多い温泉の健康効果も、ホルミシス作用によるものです。
天然の放射線を出す鉱石の近くを通って出てきた温泉水は、その水自体が放射線を出す能力があります。温泉地に行った人は、温泉水から空気中に入った放射線を蒸気から吸いこんだり、そのお湯につかったりします。場合によっては、温泉水を飲泉として飲むこともます。
それによって、放射線が体内に入ると、放射線のホルミシス作用が生じます。その具体的な効果には、以下のようなものが挙げられます。
・血流改善
・中性脂肪、コレステロール値の低下
・痛みの軽減(老廃物の分解促進)
・代謝の改善
・酸化防止
さらに、ラジウム温泉は、マイナスイオンの効果もあります。マイナスイオンが体内に取り込まれると、体はリラックスします。体がリラックスすると、酸化反応が弱まります。酸化反応は、動脈硬化や老化、認知症などの原因となるものです。
そのため、ラジウム温泉に入ることで、動脈硬化などの予防効果が得られるのです。

免疫機能への影響

ホルミシス作用のうち、もっとも注目されている効果は、免疫機能への影響です。これは、マウスでの実験で明らかになったことですが、微量の放射線は、体の免疫機能を高めるとされています。
放射線を照射してすぐは、免疫機能は少し低下します。しかし、その後、特に中高年以降の免疫機能に関わる「NK細胞」と「胸腺外分化T細胞」と呼ばれる細胞の働きが高まりました。
また、若い人の免疫機能の中心となる「T細胞」と「B細胞」も、放射線に触れた初期の頃にはその機能が低下しました。そして、NK細胞や胸腺外分化T細胞と比べると時間はかかりますが、結果的には、放射線によって活動が活発になることがわかっています。
このような、ホルミシス効果の正確なメカニズムはまだ分かっていません。しかし、微量の放射線は、体にとって良い影響を与えることは事実だと言えます。
今回述べたように、体の免疫機能には、さまざまな要因が影響を与えています。こうした免疫機能に関わる因子を理解しておくことで、免疫機能を高めて病気を発症しにくい体を作ることができるようになります。