ダイエット 糖質制限

脳のエネルギー源はブドウ糖だけって本当?脳がブドウ糖を好む理由

健康的にダイエットを行う場合、糖質の摂取量を減らすことは欠かせません。ただ、そのような糖質制限の話をすると、必ず決まった反論が起こります。
それは、「糖質を取らないと脳のエネルギーが不足してしまう」というものです。一般的に、脳は「ブドウ糖」しかエネルギー源として利用できないと認識されています。そのため、脳のエネルギー源である糖質を制限してしまうと、「脳が活動するためのエネルギーが不足してしまう」と考えられています。
しかし実際には、脳はブドウ糖だけではなく、脂肪などから作られる「ケトン体」と呼ばれる物質をエネルギー源にすることができます。
ケトン体を利用することで、糖質を制限しても脳がエネルギー不足になることを避けることができます。
ダイエットを成功させる上では、こうした脳のエネルギー源について理解しておくことは非常に大切なことだといえます。
そこで今回は、「脳がエネルギー源としてブドウ糖を好む理由」について解説します。

ブドウ糖を主なエネルギー源とするデメリット

一般的に、人の体に関して「体を動かすエネルギー源は糖である」というような認識が広がっています。確かに、ブドウ糖は体の細胞が活動するための主なエネルギー源となります。
ただ、ブドウ糖が体にとって効率的なエネルギー源ではないということは理解しておく必要があります。

糖をエネルギー源にするためには血糖値を上げなければいけない

そもそも、ブドウ糖をエネルギー源にするということは、食事から糖を摂取して、血液を介して全身の細胞に糖が送られる必要があります。つまり、血糖値の上昇が伴います。
血糖値とは、血液中にどれくらいの糖分が含まれているかを数値で表したものです。
血糖値の上昇は、血管の酸化(老化)反応を促したり、血管自体を傷つけたりすることで、全身に動脈硬化を引き起こします。そしてその結果、がんや心筋梗塞、脳梗塞といった、さまざまな病気を引き起こします。

血糖値の上昇は太る原因となる?

また血糖値が上昇すると、血糖値を正常範囲に戻す作用がある「インスリン」というホルモンが分泌されます。
ただ、インスリンは血糖値を下げる役割だけではなく、「体に中性脂肪を蓄積させる」という作用もあります。つまり、血糖値が上昇すると、インスリンが多量に分泌されて肥満になりやすくなるといえます。
このように、ブドウ糖を主なエネルギー源にするということは、体にとってさまざまな害があることを理解しておく必要があります。

ブドウ糖はエネルギー効率が悪い?

さらに、ブドウ糖はエネルギー生成効率を考えると、非常に効率の悪いエネルギー源でもあります
人間の体では、細胞内にある「ミトコンドリア」と呼ばれる器官でエネルギーが作られます。そして、ブドウ糖1分子からは、38ATPが生み出されます。ATPとは、エネルギー源となる物質のことであり、ATPが多く産生されるほど、エネルギー効率が高いといえます。
ブドウ糖に対して脂肪酸をエネルギー源とした場合、脂肪酸1分子当たり150前後もATPが作られます。
つまり、脂肪酸をエネルギー源としている場合、同じ1分子からでも、ブドウ糖の約4倍のエネルギーを生み出すことができます。そのため、エネルギー生成効率だけを考えると、ブドウ糖をエネルギー源とすることは、非常に非効率的だといえます。
このように、ブドウ糖を主なエネルギー源とすることは、血糖値上昇という害を引き起こす上に、非効率的なエネルギー生成方法だといえます。

脳がブドウ糖を好む理由

体の細胞にとって、ブドウ糖を主なエネルギー源とすることは、効率的にエネルギーを作ることができないだけでなく、多くの害を受けやすくなります。そのため、本来体の細胞はブドウ糖よりも脂肪酸を主なエネルギー源にしています。

現代人は糖分の摂り過ぎ

ただ、現代人のほとんどは日頃から砂糖や小麦粉、米といったように、急激に血糖値を上げる食事を摂っています。そうなると、必然的に血糖値が常に上昇した状態となってしまいます。
そして、血糖値の上昇は血管にとって非常に害となります。そのため、本来であれば脂肪酸をエネルギー源とした方が効率は良いのですが、体は血糖値を下げるために、血液中の糖を優先してエネルギー源として利用するようになります。
 

脳と網膜、赤血球がブドウ糖を優先してエネルギー源として利用する理由

ただ細胞の中でも、「脳」「網膜」「赤血球」に関しては、もともと脂肪酸ではなくブドウ糖をエネルギー源として利用しやすい細胞です。そのため、これらの組織は、食事に関係なくブドウ糖をエネルギー源として使っています。
そこで、「なぜ脳や網膜、赤血球が脂肪酸ではなくブドウ糖を優先してエネルギー源にしているのか」ということについて解説します。

脂肪酸とブドウ糖の違いは水に溶けやすいか否か

そもそも、脂肪酸とブドウ糖の大きな違いは、「脂溶性」と「水溶性」ということにあります。つまり、「水に溶けやすい物質であるか?」「脂肪に溶けやすい物質であるか?」ということです。
そして、ブドウ糖やケトン体は水溶性物質であり、脂肪酸は脂溶性物質です。脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体もエネルギー源として利用しています。つまり、脳がエネルギー源として好むのは、ブドウ糖ではなく水溶性物質であるといえます。

脂溶性物質は脳の働きを妨げる

脳がエネルギー源として利用できない脂溶性物質は、細胞を覆っている細胞膜に溶け込む性質を持っています。
脳では、約300億個の神経細胞が常に情報のやり取りを行っています。そのように、非常に複雑で膨大な情報量が飛び交っている脳内へ、細胞に溶け込む特性を持つ脂溶性物質である脂肪酸が入り込むと、脂肪酸によって脳内の精密なネットワークが乱されてしまいます
一方で水溶性であるブドウ糖やケトン体は、細胞に溶け込む性質を持っていないため、脳における情報のやり取りを妨げることはありません。
このような理由から、脳は脂肪酸よりブドウ糖やケトン体を好んでエネルギー源としています。ちなみに、網膜は脳の延長であるため、同じような理由からブドウ糖とケトン体を主なエネルギー源とします。

赤血球はミトコンドリアがないために脂肪酸からエネルギーを作れない

また、赤血球はミトコンドリアを持たない細胞であるため、脂肪酸からエネルギーを作ることができません。実際には、赤血球は活動のために大量のエネルギーを必要としないため、「解糖系」と呼ばれるシステムによって、ブドウ糖からわずかなエネルギーを得ることで活動しています。
このように、脳は脂溶性物質のエネルギー源を利用すると、脳の精細な活動が妨げられる恐れがあるためにブドウ糖やケトン体といった水溶性物質を主にエネルギー源としています。
ただ、水溶性物質の中でもブドウ糖は、エネルギーとして利用するために、「血糖値の上昇」というリスクを伴わなければいけないことを理解しておくことが大切です。そのため、脳にとって安全で効率的なエネルギー源はケトン体だといえます。